●しりあす・とーく | |||||||||
第16回テーマ
内科ローテーションで何を学ぶか?
(前号よりつづく) 研修医はどのように内科ローテーションをしたか?前野 新しい医師臨床研修制度では,すべての研修医が内科ローテーションを行いますが,指導医にとっては,特に内科志望者以外に,何をどこまで教えるかということは大きな悩みです。そこでまず,内科のローテーションではどういうことを学んだか,またはどういうつもりで回ったかを,研修を終了されたばかりのお2人にお聞きしたいと思います。 鳥居 では,「内科志望者以外」ということで私からお話ししますが,横浜市立市民病院の内科では,研修医に事前に質問紙が配られまして,内科でどのようなことを勉強したいかを書き,それに対し面談があります。それが自分のモチベーションを上げるという点でよかったと思います。特に糖尿病や高血圧の患者は眼科に必ず来ますから,高血圧と糖尿病の管理はある程度身につけたいということを書きました。膠原病もそうです。やはり眼科に関係したものを診ていきたいと思ったので,内科の先生も,そのような症例に関しては一生懸命教えてくださいました。 研修医のニーズがわかっていると,指導医側としても教えやすいのだと思いますし,自分たちも,勉強したいと思ったことがきちんと勉強できたので,そのシステムはよかったと思っています。 前野 研修医が書いたことは,指導医のあいだでは共有されていたのですね。 鳥居 そうですね。 研修する側に目的意識が必要前野 下山先生はいかがですか。
内科系には,大きくはその3つのユニットがあるので,研修医は,選択ローテーションで選ばなければ循環器と脳梗塞,脳出血,くも膜下出血に関しては学ぶ機会が,まずありません。また,それぞれの科の先生で,指導情報を共有しているわけではないので,「こういうものを学びたい」という目的意識をもっていても,「これについて質問しよう」と思わない限りは,ただ仕事をこなして帰るだけということになってしまうことがあります。これはあまりよくない点ですが,こういうことは私が研修した病院に限らず,多くの病院が抱えている問題ではないかと思います。 将来の進路を念頭に初期研修でしか学べないことを学ぶ下山 私の場合どのように研修したかというと,将来は循環器内科にいくぞ,ということを2年目の最初に決めたので,内科ローテーションの前に,循環器科はあとで死ぬほどやるからあえていまはやらないという選択をして,1か月に6回ぐらい,ERといって夜の救急外来の当番があるんですけれども,そこへ来る循環器疾患の患者さん以外は,循環器を診ていません。私は内科を必修と選択とあわせて8か月選んで,脳卒中科を2か月選択し,これで(循環器以外の)全部の内科をざっと見ることができたかなと考えています。そのなかから,循環器疾患に関係があるところとか,トピックとか,動脈硬化に関係のあるところだけを拾っていって勉強するようにしました。 自分がしっかり学べているかという不安下山 来る患者も,症例も膨大なので,何かテーマを絞らないと,とてもじゃないですが全部はやれませんので,夜の救急外来で一般的なところを学んで,昼の内科では自分の決めたテーマに沿って勉強するように心がけました。ですから,患者さんのプロブレムも将来役に立つようにというつもりで拾って治していくというふうにしました。指導医の先生が導いてやろうということで教えてくれたという環境ではなかったので,自分でやらざるを得ないところがありました。そのなかでできることをやっていったわけです。循環器疾患でも,できるだけ循環器の先生に聞くようにして,聞ける先生にはどんどん聞いて…。ただ,それでほんとうに学べたかどうかというと,不安なところもありました。たまにこうやってほかの病院の研修医の先生と話してみて,「いやぁ,負けたなぁ」とかって“ひとり反省会”をして,「また勉強しよう」と思ったりする。そんな感じでやってきました。 だから,どこかで交じり合う場を確保することが自分にとっては有効だったのと,意識するのを忘れると自分に負けてしまいそうなので,そこのところは,すごく気を張っていてつらかったなという思いもあります。 初期研修時にEBMを身につける鳥居 研修医は,いま下山先生が指摘された問題に絶対にぶつかると思うのですが,横浜市立市民病院で臨床研修の責任者をされていた大生定義先生は,EBMをしっかり指導してくださり,例えば『UpToDate』をうまく使いながらやっていってほしいと,研修医にも強調していましたし,自分たちも実際にそのようにしていました。
いま話をうかがって,2人とも自分たちなりに働いた環境のなかできちんと目標を絞り込んでいますね。ローテーションする診療科は,将来の専門分野に関連が深いところもそうでないところもあると思いますが,同じ研修でも目標をもって研修に臨み,そこに研修の意義を見いだすかどうかで,研修のおもしろさはすいぶん違ってくるのではないかと思います。そういう意味では,お2人とも,やりがいを見いだすのがすごくうまいと思います。 自分は医師として認められる水準にいるのだろうか?下山 一つ気になるのは,この制度が,ヨーイドンでスタートして,私たちが初年度だったわけですが,2年間やってきて,はたして自分のやってきた研修は大丈夫なのかな,少なくとも偏差値50よりも,1でも,2でもいいから右のほうにいるのかなということを不安に感じています。この制度ができて,全国的にある程度同じような研修を始めたということは,すなわち医者の実力が比較できるようになったということでもあります。自分は医師として認められる水準にいるのだろうかということを考えてしまいます。前野 石丸先生。指導医側として,どうですか。 石丸 自分が受けてきた研修もそうですが,私の天理よろづ相談所病院にはOBがたくさんいて,これまでもだいたい同じような制度で回っています。 例えば,皆が(将来)内科をやるとは限らないですし,それこそ眼科へいった人もいるし,心臓外科へいった人もいるしという環境で,あとから振り返ったときに,もちろん皆さん,目的意識をもって「これを学ばなアカン」「これはこのレベルまで」「これはこういうふうにして…」というのがあると思うのですけど,10年経って振り返ってみたら,そのときに学んだ知識や技術がどれほど今の医師としてのあり様に影響しているかというと,それほど大きくはないのではないかと思うのです。例えば,眼科へいったらIVH(中心静脈栄養カテーテル)を取ったことなんか,関係なくなってきますよね。 内科研修で最低限学ばなければならないこと![]() しかし,よその科にいくと,そういうことを強調される機会は少ないのではないでしょうか。 ですから,内科では,問題解決の基本を学んでほしいと思うのです。医療に対する姿勢とか,態度といったことが医師としては最低限大事なことであって,それをきちんとできるようになっている人は,例えば知識や技術といったことを抜きにして考えたときにも,将来,「役に立つ研修だったな」と思えるのではないかと思います。 研修医が本質的に学ぶべきことを内科指導医は意識する必要がある石丸 もっとも,お二人のお話を聞いていたら,そういうことは完全にクリアしていると思います。あとの知識とか,技術というのは,内科へいく人,外科へいく人,いろいろあるので難しいところがありますが,各プログラムで,どれだけの疾患をどういうふうに経験させたかについてはデコボコがあるので,それをなんとか埋めていくというか,標準的にこのへんまでできなければいけないということは,共有してやらなければいけないことだと思います。ただ,日本の病院も多種多彩で,それこそ循環器の患者さんは一切内科では診ないというところもあったりするわけで,疾患の偏りというのは,ある程度やむを得ないところもある。そのなかで,本質的に学ばなければいけないことは何かということを,内科の医師として意識しながら教えなければいけないと思います。ローテーションした人が,また指導医になっていくという流れのなかで,おそらくこういうことはどんどん改善されていくのではないかと,私は楽観的に考えてはいますが。 指導医の不幸![]() 全国一律の制度ゆえの難しさ前野 今回の研修制度は,全国毎年8,000人のための制度ですから,現実的には「この領域は内科でやってください」「この領域は○○科でやってください」というように,現在の指導体制に合わせて研修目標個別に切り分けていくしかないわけです。実際,プログラム責任者養成講習会では,何百とある研修目標を診療科に割りつける練習というのをやるんです。これをやっておかないと,例えば意識障害について,内科は救急で診るだろう,救急は内科で診るだろうとお互い思いこんでいて,結局両方で診られなかった,というのでは研修が終われなくなってしまうわけですね。ですから,研修管理委員会としては,すべての研修項目を必ずどこかに割り付けなくてはいけないんです。それぞれの病院の事情に合わせて,例えば意識障害であればA病院では内科,B病院では救急,C病院では救急ではなく麻酔を回ることになっているから,外科で夜の当直の時に経験させる,というように割り付けていくわけです。 割り付けには,病院の診療体制も大きく影響します。例えば,総合診療科がある病院と,ない病院,内科の診療体制,例えば大学病院だったら全領域がありますけど,中規模病院だと呼吸器と循環器と腎臓しか診ないというところもあるわけで,それによっても違ってくるんです。 臨床の基本を学ぶことが期待されている内科ローテーション前野 ですから,内科で何を研修するかは病院によって異なります。しかし,その根本は,おそらく石丸先生もその意味を含めておっしゃったのだと思いますが,「内科的なものの考え方」ではないかと思います。(つづきは本誌をご覧ください)
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