HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻10号(2008年10月号) > 連載●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療
●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第10回テーマ

主訴別の患者の診かた(5)
頭痛を訴える患者の診かた(後編)

岩崎 靖小山田記念温泉病院 神経内科


 頭痛は日常診療においてはありふれた症状であるが,原因疾患はさまざまである.頭痛の原因として大部分を占める「機能性頭痛」(緊張型頭痛や片頭痛など)の鑑別ポイントについては前回述べた.今回は,頻度は低いが緊急の対応を必要とする器質性疾患による「症候性頭痛」について,鑑別のポイントを概説したい.


■頭痛の分類と特徴

症候性頭痛

 頭蓋内器質性疾患による症候性頭痛は頭痛患者1,000人につき1人程度とも言われているが,絶対に見逃してはならない.早期に診断して適切に対応すれば予後は良好であることが多く,初診時の鑑別が重要である.画像診断が重要であることは言うまでもないが,問診からその存在を疑うことが重要である.

 症候性頭痛を見逃さないための問診として,「以前にも同様な頭痛がありましたか?」と聞くのが有効である.過去にも同様な頭痛を経験していれば機能性頭痛である可能性が高く,逆にこれまでに経験したことのない激しい頭痛であれば症候性頭痛を疑って慎重に検索を進める必要がある.

■くも膜下出血(図1)

 突発する頭痛に嘔吐や意識障害を伴う場合はくも膜下出血を疑わなければならないことは,言うまでもない.突然発症し,瞬時に痛みがピークに達する「突発ピーク型」の頭痛が特徴である.「急に後頭部をバットで殴られたように痛くなった」のように訴えることが多い.一方で,「かつて経験したことのない激烈な痛み」と訴えても,頭痛が次第に増強してきたのであればくも膜下出血の可能性は低い.

 実際の臨床では,1/3の症例は病院に着く前に死亡し,1/3の症例は来院時に昏睡状態か高度の意識障害を呈するとされる.多くは救急車で来院し,診察時には激烈な頭痛による苦悶表情,非常な重症感,項部硬直,悪心・嘔吐,局所神経症候があるので見逃すことはないと思われる.注意すべきは,普通に歩いて来院し,診察時には頭痛が治まっているような症例が稀に存在することである.このような症例ではしばしば頭部CTでも出血がはっきりせず,髄膜刺激徴候もなく診断が困難であるため,神経内科医は「地雷」と呼んで非常に恐れている.典型的な「突発ピーク型」の症例,「急に気が遠くなるようにふわっとして,頭痛がした」などの訴えで直感的に怪しいと感じる症例は,頭部CTで異常がなくても迷わず,余計なことは一切せず直ちに脳神経外科に紹介するべきである.髄液検査は出血を助長する危険があり,このような症例ではむしろ禁忌である.

Point
典型的な症例では見逃すことはないが,非典型的な症例が紛れているので,とにかく常に疑う.

(つづきは本誌をご覧ください)