HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻6号(2008年6月号) > 連載●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療
●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第6回テーマ

主訴別の患者の診かた(1)
しびれを訴える患者の診かた

岩崎 靖小山田記念温泉病院 神経内科


 しびれがあるというだけで神経内科に紹介されてくる患者は多い.しかし,実際には整形外科,血管外科,内分泌内科,婦人科,心療内科的な治療を要する患者が多く,神経内科的な専門治療を要する疾患はそれほど多くない.ストレスや神経症の転換型で,顔面や全身のしびれを訴える患者も最近多く,最初から適切な科へ紹介することが重要であることは言うまでもない.また,しびれを訴えたというだけで,ビタミンB12(メチコバール®)やビタミンE(ユベラ®)が漫然と投与されている患者が多いが,まず適切な鑑別診断を行ってから投与していただきたい.


 第2~5回では,患者が診察室へ入る際の観察点について書いた.今回からは日常診療で比較的頻度の高い神経症状(しびれ,めまい,ふるえ,頭痛,物忘れ,歩行障害)について,問診や診察のポイントを書いてみたい.

■しびれとは

 「しびれ(痺れ)」を訴えて内科を受診する患者は非常に多い.「しびれ」は日常語であるが,非常に漠然とした曖昧な表現でもある.神経内科的には感覚障害を意味するが,患者にとっては必ずしも感覚の異常を訴えているとは限らず,筋力低下や痛みを「しびれ」と訴える患者も多い.一過性脳虚血発作で一時的な脱力があると「手がしびれた」と訴えることが多く,Parkinson病による振戦や筋固縮,小脳失調による巧緻運動障害,関節リウマチによる手指のこわばりをしびれと訴える患者も経験する.

 今回は「しびれ」を訴える患者の問診法と所見のとり方について解説し,日常診療で頻度の高い疾患について鑑別のコツを概説したい.

■問診法

 患者の訴える「しびれ」の内容は多彩でとらえにくい場合も多いが,診断には具体的な問診がきわめて重要である.問診で「しびれ」の内容をよく理解し,ある程度鑑別診断をつけなければ,いくら慎重に診察,検査をしても「しびれ」の多くは原因を特定することができないといっても過言ではない.神経学的所見をとる前に,問診でだいたいの診断がつく場合も多いことを強調したい.

1. 患者の訴える「しびれ」が感覚障害であるかどうかを確認し,その性状を具体的に理解する

 患者が訴える感覚障害の具体的な内容は「びりびりする」,「じんじんする」,「ちくちくする」,「ほてる」,「感覚が鈍い」などがあり,「触ると痛い」などの痛みの要素を伴うこともある.

 感覚障害には,刺激に対する感覚が鈍くなる「感覚低下(または感覚鈍麻)」,感覚刺激を異なった感じとして自覚する「錯感覚」,何も刺激がなくても不快な感覚が続く「異常感覚」,感覚をより強く感じる「感覚過敏」などがある.感覚が全くなくなれば「感覚脱失(感覚消失)」である.正座の後で下肢が「びりびり」するのは感覚過敏と異常感覚であり,何かが触れただけで強い痛みを感じるのは錯感覚である.

 実際にはこれらが混在したり,問診では判別が難しいこともあり,これらの用語を正確に使うことを意識するよりも,患者の訴えを理解し,具体的に記載するほうが有用である.

2. 自覚的感覚異常の部位と範囲をよく問診し,随伴症状を確認する

 両足の指先,両足の裏(足底),両手の指先,四肢など,末梢のしびれを訴える患者が多い.頭,顔,舌,背中など,脳神経領域や体幹のしびれの訴えも,時にある.

3. いつ頃から症状があるのか,発症様式はどうか,症状は変動したり寛解したりするのか,特定の姿勢と関連するか

 発症様式が急性で持続していれば脳血管障害や急性炎症性脱髄性多発ニューロパチーなどを疑い緊急の対応が必要である.しかし,しびれでは慢性の経過や,症状の変動を訴える患者のほうが多い.

■感覚障害の所見のとり方

 感覚には表在感覚(触覚,温度覚,痛覚)と深部感覚(位置覚,振動覚)がある.表在感覚の伝導路は脊髄前方の脊髄視床路を上行し,深部感覚は脊髄後索を上行するため,障害の部位によっては解離性の感覚障害が生じる.

 神経内科的診察ではこれらの感覚を個々に調べるが,感覚障害の検査を詳細に行うためには,かなりの時間が必要である.外来ではそれだけの時間をとれないだけでなく,あまり時間をかけると患者も疲労して所見が曖昧になってくるので,短時間で要点だけを押さえる必要がある.

 通常は四肢の触覚,温度覚,振動覚をスクリーニングすれば十分であると思われるので,簡単なコツを概説したい.

触覚の検査

 顔や頸部,対側など正常と思われる部位と感覚障害を訴える部位を交互に刺激すると判別しやすい.筆,脱脂綿,ティッシュなどで触りながら感覚が低下しているか,過敏になっているかを患者に問う.道具がない場合は,指先で軽く触れて検査をする.

 「正常の場所を10とすると,どの程度に感じますか?」というふうに問いかけるが,「2か3か」,「7か8か」まで詳細に検査しても意味はなく,感覚低下が軽度か,重度かだけで十分である.あまり患者に詳細な評価を求めても困惑するので,私は「だいたいでいいですよ」,「判断に迷ったら,同じと考えていいですよ」と言っている.

 全身を検査するのが理想であるが,自覚症状から推定される部位をまず検査して,異常があるかどうかを確認する.

振動覚の検査

 音叉を使って検査するが,通常は下肢から低下するので足関節の外踝に当てることでスクリーニングをする.128Hzの音叉が使いやすく,下肢で10秒以上感じていれば正常と判断する.音叉やハンマーの金属の部分を皮膚に当てることによって,温度覚の簡単なスクリーニングもできる.

 しびれの部位の色調(青白い,発赤しているなど),温度(冷たい,温かい),浮腫があるかないか,についても観察しなければならない.

(つづきは本誌をご覧ください)