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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第17回[内分泌内科編]

糖尿病緊急症(低血糖・高血糖)へ的確に対応しよう

松田 道隆(聖路加国際病院内科)
門伝 昌己・出雲 博子(聖路加国際病院内分泌・代謝科)


指導医 今回は糖尿病治療患者の緊急症として,低血糖と高血糖をとりあげます.いずれも救急外来で遭遇することが多い疾患ですが,以下の具体例を通じて勉強し,すばやく的確な治療ができるようにしましょう.

低血糖  まずここを押さえよう
  1. 患者は「低血糖」を主訴にはやってこない.意識障害や低血糖症状でやってくる.
  2. 意識障害の基本はAIUEOTIPS.すぐに加療できる低血糖の鑑別順位は高い.
  3. 冷汗,振戦,動悸などの交感神経症状が出れば,血糖60mg/dl以下のサイン.

■症例1
仕事中に意識障害をきたした50歳男性

指導医 50歳男性が土木作業中に倒れ,救急車で来院しました.連れてきた同僚によると,「倒れる数時間前に動悸を訴え,次第に言動がおかしくなった」とのことで,既往は不明,来院時意識レベルはJCSⅠ-1,その他vital sign,身体所見は異常ありません.どう対応しますか.

研修医 意識障害の原因がわからないので,まず頭部CTを施行します.

指導医 ちょっと待ってください.意識障害の基本はまずAIUEOTIPS(表1)です.本症例は血液ガスで血糖34mg/dlと判明しました.とすれば,どうしますか.

表1 意識障害のAIUEOTIPS
Alcohol
Insulin
Uremia
Encephalopathy/Electrolytes/Endcrine
Oxygen/Overdose
Trauma/Temperature
Infection
Psychiatrid/Porphria
Shock/Stroke/SAH/Seizure

研修医 50%ブドウ糖40mlを静注します.

指導医 既往のわからない患者では,Wernick脳症を予防するためにビタミンB1(メタボリン ®100mg)をブドウ糖と一緒に投与するのも大事ですね.この患者はこの対応ですぐに意識清明となりました.もし低血糖に気づかずCTを撮りに行っていれば,CT室で低血糖による痙攣を起こしていたかもしれません.

研修医 動悸やおかしな言動は何だったのでしょうか.

指導医 いずれも,低血糖による症状で説明できます.動悸は血糖を上げようとするアドレナリンなどの拮抗ホルモンによる交感神経症状で,冷汗や振戦とともに血糖値60mg/dl以下で現れます.低血糖患者にとってのいわば警告症状となり,重要です.一般に,表2に示す症状は低血糖の度合いの目安になります.

表2 低血糖の症状
60mg/dl以下:空腹感,不安,焦燥,動悸,冷汗,振戦
50~55mg/dl:認識障害
45~50mg/dl:無気力
30mg/dl 以下:昏睡
20mg/dl 以下:痙攣→死

 さて,意識回復後に行った問診で,患者は糖尿病をもっておりアマリール®3mg錠を1日2回飲んでいることがわかりました.血液検査ではアルコールは検出されず,肝機能正常,クレアチニン4.75mg/dl[eGFR(推定糸球体濾過量)15]と腎機能障害を認めましたが,電解質異常は認めませんでした.次はどうしますか.

(つづきは本誌をご覧ください)