HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻9号(2008年9月号) > 連載●患者が当院(ウチ)を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係
●患者が当院(ウチ)を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係

第9回テーマ

患者が一番知りたいこと

灰本 元(灰本クリニック)



 患者が一番知りたいことはなんだろう? 読者はこの質問にどのように答えるだろうか.診断名や病気の原因? それとも治療法? そんなことより治るかどうか,などなど.もしかすると大学病院の医師と開業医では違った答えになるかもしれない.


■自分はいったいこれからどうなっていくのか

 風邪の発熱が少し長引いたときでさえ,本当に風邪だろうか,肺炎ではないだろうか,もしかしてあの映画で見た白血病では,と患者の不安は増していくものだ.患者の誰もが共通して一番知りたいのは,たとえただの風邪でも診断名や病態,ましてや疫学などではなく「自分はいったいこれからどうなっていくのか」ではないかと私は考えている.つまり「予後」であるが,この医学用語は患者の耳にはなじまない.予後はわかりやすく言えば,“あなたがどうなっていくか”であり,私はその疑問について病の軽重にかかわらず,初診からしばしば費用まで含めて明快に伝える方針としている.

 いつものように症例を挙げて考えてみよう.

■複数の医療機関で,治療の効果がなかった患者

 患者は45歳の女性,5週間前から乾性の咳が昼夜を問わず続いており,すでに複数の医院や病院(呼吸器内科,耳鼻科)で胸部X線検査,CT,肺機能検査なども受けていたが異常なかった.風邪薬,鎮咳薬,喘息吸入薬(ステロイドと長時間作用性β2刺激薬)などの治療を受けていたが,効果がなかった.簡単な問診と聴打診が終わった後の会話.

灰本 うーん,なかなか治らないようですね.

患者 本当に困ってます.AクリニックとB病院では抗生剤や咳止めをいくつか変えてもらったり,紹介されてC病院でCTも撮ったんですが…….

灰本 異常なかったんですね.喘息の薬も効いてないようですね…….

患者 ええ,C病院で喘息かもしれないと言われて,吸入薬を2種類もらいました.

灰本 どのくらいの期間吸入ましたか?

患者 もう2週間以上になりますが…….

灰本 やはり効きませんか……以前から季節の変わり目に同じような症状はありませんでしたか?

患者 ……そういえば,去年も,その前もあったかも,でも今年ほどひどくないです.

灰本 そうですか,去年も軽いけどあった…….

患者 何かよくない病気じゃないでしょうか?

灰本 ……どんなことを心配しているんですか?

患者 子どもや主人にうつったりしないかとか,営業の仕事なんでお客様と話しても咳が出ますから感じ悪いし,このままいつまで続くかと思うと気が滅入ります…….

灰本 なるほど,そのあたり今までの先生は何と言ってましたか?

患者 いや,なんにも,「検査しても異常ないから」とだけ.

灰本 そうでしたか…….まあ,これだけ検査して異常ないのですから,人にうつす病気ではないですね.喘息とも言えませんし,去年もあったようですから,季節の変わり目の体質的な咳か,もしかするとストレス咳かなー…….ストレスと言われると何か心当たりないですか?

患者 ストレスですか……,今はそんなに仕事は忙しくないし,家族にも心当たりは…….

灰本 そうですか.どちらにせよ,薬を飲まなくても季節が変わればそのうちよくなるでしょう.間違っても生活が壊れるようなことにはなりません.

患者 そうですか(ほっとした様子),それを聞いて安心しました.

灰本 まあ,命までは取られませんから,ゆっくり治療してみませんか.

(つづきは本誌をご覧ください)