HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻10号(2008年10月号) > 連載●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集
●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集

第10回テーマ 最終回

インフォームド・コンセントの手順(後編)
リスクマネジメントの基本としての

田中まゆみ(聖路加国際病院・一般内科)


 いよいよ本連載も最終回を迎えた.前回に引き続き,リスクマネジメントの基本である「インフォームド・コンセント」について述べるが,特に,臨床現場で医療者がジレンマを抱えることが多い「癌告知」と「終末期」について,適切なインフォームド・コンセントとは何かを,なるべく具体的に述べていきたい.


 医療現場における「悪い知らせ」は,患者・家族の気持ちをかき乱し,ときに,怒りの感情を引き起こす.その怒りの感情は,本来,「生・老・病・死」という不条理に向けられるべきものなのだが,しばしば患者・家族は,それを目の前にいる医療者にぶつけたいという衝動に駆られる.

 この,「悪いニュースを知らせた者を罰したい」という感情は,何も医療現場に限ったことではない.古今東西,「使者」というのは,命がけの業務であったことを思い起こしていただきたい.“Don’t kill the messenger.”という諺(?米国の医療現場ではよく聞かされる)もあるくらいだ.

 患者が医療者を使者として受け取る悪いニュースの代表的なものは,「癌の告知」と「余命の告知」であろう.そうして,上記のような自然な感情から,患者・家族が医療者に不信や恨みを抱き,「訴えてやる」と決心するきっかけにもなりやすいのである.

 このようなことを理解し「予見(Anticipate!)」したうえで,「丁寧で親身な態度(Behave!)」で,「よく話し合う(Communicate!)」こと,そしてその内容を「記録する(Document!)」ことが,無用なトラブルを防ぐリスク・マネジメントとなる.もちろん,患者・家族の反応を「予見(Anticipate!)」し,「丁寧で親身な態度(Behave!)」で,「よく話し合う(Communicate!)」のは,訴訟を防ぐために行うのではなく,医療倫理上当然であり,また,良い協力関係を築くことが治療上も良い効果をもたらすという意味でも双方の利益にかなっており,すべての医療場面で実施されるべきことであり,ことさらに「リスク・マネジメント」と結びつける必要もないことであるが(「訴訟怖し」からの付け焼刃ではなく,日頃からどういう医療者であろうとしているかという心がけがものをいう,と本稿でも繰り返し述べてきたことである).

(つづきは本誌をご覧ください)