HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻6号(2008年6月号) > 連載●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集
●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集

第6回テーマ

リスクマネジメントのABCD
その4 「日ごろの態度」がものをいう

田中まゆみ(聖路加国際病院・一般内科)


 今回のテーマは,「リスクマネジメントのABCD」の「B:Behave(態度を慎む)」である.「日ごろの態度」が結局は訴訟を防ぐことになるので,真剣に身につけなければならない.

リスクマネジメントのABCD
A=Anticipate………(予見する)
B=Behave…………(態度を慎む)
C=Communicate …(何でも言いあい話し合う)
D=Document………(記録する)


■B=Behave(態度を慎む)――患者が協力的であれば事故は防げる

 初対面の挨拶からのマナーが大切注1.できれば,医師は椅子から立ち上がって挨拶する,場合によってはドアを自ら開けて客を迎えることが望ましい.

 患者や家族に親身に誠実に対応する.患者や家族が何でも話しやすい雰囲気をつくれば,正しい診断に役立つ情報を提供してくれ,誤診を防ぐことにつながる.患者が対等に扱われ協力的であればあるほど事故は防げる.インフォームド・コンセントを得る場合も,医学の限界をまず自身が謙虚に理解し,患者家族にわかりやすく説明して理解を得るように努める.隠し事をせず,公明正大にふるまい,無理強いあるいは急かすようなことをしてはならない.

 看護師などコメディカルと風通しのよい関係を築く.ミスは誰にでもあるので,謙虚にミスを認め,看護師や薬剤師が指摘してくれたりカバーしてくれたりしたら感謝の言葉を述べよう.同僚とは,お互いに気軽に間違いを指摘しあえ,勤務交代がいつでも頼めるようなオープンな協力関係を築いておく.ミスを犯したら,インシデントレポートを提出することはもちろんである.

鉄則1 ミスは誰もが犯しうるので,謙虚に振舞おう

 First, do no harm.ミスをする存在であることを自覚し,医療の限界を常に意識し,誠実に謙虚に振舞う.患者に対してもコメディカル・同僚医師に対しても,ミスの指摘を歓迎し,感謝しよう.インシデントレポートをまじめに提出する習慣をつけよう.

■職場全体でマナーの重要性を共有する

 入職時にマナー教育を行い,態度の重要性を徹底する.接遇マナーの悪い職員は医師・非医師を問わず再教育する.

鉄則2 職場の雰囲気から改善する

 職場全体の雰囲気が丁寧であれば,そうでない職員もおのずとマナーが改善する.失礼な態度の同僚がいたら注意しあおう.

■「日ごろの態度」が訴訟を防ぐ

 「患者が医者を訴えるのはその医者が嫌いだからだ」と言われる.また,「優秀な医師ほど訴えられやすい」とも言われる.傲慢さや差別意識はどうしても日ごろの「偉そうな」「見下したような」態度の端々に出るし,ぽろっと失言してしまうことにもなる.先天異常を「ま,言葉は悪いが『できそこない』ですな」,精神病患者を「『プシコ』がさ,また例の不定愁訴かと思ったら虫垂炎でさ,やばいやばい」「へえ,『本当の病気』だったんだ(笑)」,「ばあさんはもう勘弁してほしいよ,痛いだの辛いだの,そりゃもう年だっての.話は長いしこっちの説明はわかりっこないんだし,もう先が見えてるんだから何をしても無駄なのにさ」など,患者・家族が直接・間接に耳にする医療者の言葉(たとえ医療者同士の冗談であっても)には思慮に欠けるものが多い.差別発言はいつどこで誰と話しているときでも問題である.心でそう思っているなら行動に現れても不思議ではないからだ.傲慢さと差別意識は医療者にとって大きなリスクといってよい.例えば過労のときに,自分が差別意識をいだいている患者が救急受診したら,何かの拍子に本音の差別用語が出てしまうかもしれないからである.精神病や先天異常や加齢現象を正しく認識し,不条理や弱者に対する心をこめた対応ができる医療者になろう.研修医はまだ若く,睡眠不足で過労であるから,「偽悪的」ジョークもストレス発散の一法と思っているかもしれないが,何度も言うように,聞いた側はそうは受け取ってくれないのである.感情を害した患者家族に何か事故が起これば紛争化しやすい.

 インフォームド・コンセントを得るときの態度も重要である.患者家族が医療者側の自己保身や都合が優先されていると感じるような押し付けがましさ・性急さがあると,事故が起こった場合の患者家族の信頼を回復するのは難しくなる.

(つづきは本誌をご覧ください)

注1) Kahn, MW:Etiquette‐Based Medicine N Engl J Med 358:1988‐1989, 2008