●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより |
第6回テーマ 骨・関節・軟部組織感染症のマネジメント 岩田健太郎(神戸大学 感染症内科) ■右肘の著明な腫脹・疼痛を訴える関節リウマチのある64歳女性◆現病歴
◆身体所見
◆検査データ
【Q1】診断は?骨・関節感染症の診断は,解剖が命です.やられているのは,皮膚? 皮下? 筋膜? 筋肉? 骨? 関節? 腱? このケースの場合,皮膚の発赤があるから皮膚感染症(丹毒)や皮下の感染症(蜂巣炎,蜂窩織炎)の可能性があります.たぶん,これらも合併しているでしょう. 命にかかわる怖い疾患に壊死性筋膜炎があります.壊死性筋膜炎は決して重症の蜂窩織炎ではありません.皮膚所見は目立たないことも多く,むしろ皮膚所見の地味さに合わないバイタルの狂いが,診断のヒントになります.疑ったら速攻で専門家コンサルト.見たことがないとなかなか診断できない壊死性筋膜炎ですが,一度見ると一生忘れられない感染症でもあります.決して稀ではありません. 他にも屈筋腱炎,骨髄炎など,骨・関節・軟部組織感染症は鑑別疾患が多いのです.解剖学を意識して,丁寧に診察しましょう. このケースの場合,関節の関節炎,いわゆる化膿性関節炎を疑います.診察上,肘の蜂窩織炎と化膿性関節炎を区別するのは簡単ではないこともあります.関節可動域の減少や関節裂 肘に多いのが,関節の周りにある滑液包の炎症,滑液包炎(bursitis)です.こちらは非常に予後の良い感染症です.化膿性関節炎との鑑別は,関節可動域のあるなしが重要です.化膿性関節炎では,ほぼ必発で関節可動域は減少していますが,滑液包炎ならほとんどフルで関節を動かせるからです.
急性発症の単関節炎(ひとつの関節だけやられている)では必ず化膿性関節炎を疑いましょう.関節リウマチがあるから,「リウマチの増悪か」,なんて決めつけて,ステロイドを増量したりするのは御法度です.関節リウマチの場合は,典型的には対称性の多関節炎です.実は,化膿性関節炎は,リウマチ,変形性関節症,痛風,偽痛風などで関節の破壊が存在するところに発症しやすいのです! だから,関節リウマチがあっても化膿性関節炎は否定できず,関節穿刺液で尿酸結晶が見えても化膿性関節炎は併存しているかもしれないのです.
(つづきは本誌をご覧ください) 岩田健太郎 |