●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより | |
第3回テーマ 市中肺炎のマネジメント 岩渕千太郎(旭中央病院 内科/感染症科) ■ケース1 湿性咳嗽と肺野浸潤影を伴う66歳の重喫煙歴がある大酒家(本稿では,洛和会音羽病院の大野博司先生がIDATEN感染症セミナー用に作成したシナリオを使用した) ◆現病歴
◆身体所見
◆検査データ
■はじめに■市中肺炎は臨床医として必ず出遭う感染症です.そして,感染症診療の原則がそこにすべて含まれます.簡単なようにみえていろいろと考えるべきことがあります.基本的な症例のマネジメントを通じて考えていきましょう. Q1 このケースのような患者が受診した場合,最初にすべきことは?まずこのような発熱,頻呼吸の患者が来た場合,考えるべきはこの人が肺炎かどうかを判断することです.肺炎の定義から考えてみましょう. 教科書として,『ハリソン内科学』1)から引用した文書では, 「肺炎は病理学的には肺の重量増加,硬化による正常な肺の海綿構造の置換,白血球や赤血球,フィブリンで満たされた肺胞などを所見とする,肺胞,末梢気道,肺間質の感染症である.臨床的には,さまざまな症状や徴候(発熱,悪寒,咳,胸膜痛,喀痰,高体温あるいは低体温,呼吸数の増加,打診での濁音,気管支呼吸音,ヤギ音,水泡音,喘鳴,胸膜摩擦音など)がみられ,胸部X線像で少なくとも1か所の陰影を伴う.多くの非感染性疾患が肺炎に類似するため,診断はしばしば不正確なものになる」とされています. この定義に当てはめても,どうもこの患者さんは肺炎のようです.次に行うべきことは何でしょうか.喀痰培養や血液ガスを測定することではなく,重症度の評価です.外来治療で大丈夫か,入院が必要か.入院が必要なら,一般病棟でよいのか,それとも重症として集中治療室に入室が必要なのか,まず肺炎と診断した時点での今後の見通しを評価することが必要です. 肺炎患者の評価方法としては,いくつかの指標が提案されています.
いずれの評価方法も長所,短所があります. PSI(表1,2)はカナダの市中肺炎診療において,外来診療か入院診療かを判定するための前向き研究(PORT studyと呼ばれます)で,入院後の予後判定に用いられました2).いくつかのパラメータを用い,陽性なら点数を加えていき,最終的な合計点数でI~V群に分類しました.一般にⅣ~Ⅴ群が入院治療が必要で,死亡率が高くなる,という結果でした.年齢を直接点数化しており,点数をつけて分類する,というのは明快ですが,カナダと比べて日本のような平均寿命が高い国では点数が高くなりがちです.後述のCURB-65もそうですが,日本で適応する場合に,分類通りの予後判定となるか,という点では日本での有用性は下がるかもしれません.点数から傾向を把握する,という点では信頼できる指標です. 次のCURB-65は英国で作られた基準です.PSIが10数種類のパラメータを使用しているのに対して,意識,尿毒症,呼吸数,低血圧,年齢(C:Consciousness,U:Uremia,R:Respiratory rate,B:low Blood pressure,65:65歳以上)と5つのパラメータで評価しています(表3).必要な因子はすぐに出すことができるのはPSIと比較した場合,大きな利点です.これも3因子以上陽性となった場合の予後は悪いとされています. A-DROPはCURB-65を参考に日本呼吸器学会が提案した日本オリジナルの評価基準です3).①男性70歳以上,女性75歳以上,②BUN21mg/dl以上または脱水あり,③SpO2 90%以下(PaO2 60Torr以下),④意識障害,⑤血圧90mmHg 以下,という5因子で評価し,やはり4~5個あてはまる場合は重症と考えられます(表4).2005年に提唱されたばかりで,評価はこれから定まっていくと考えます. ここまでで提示した3つの方法のうちどの評価方法がベストか? これも定まった意見はありません.専門家の間でも用いる指標はさまざまです.ただ,少なくとも市中肺炎の患者を診た場合,重症度を評価して今後の見通しをつける,ということは原則として理解してください. ポイント1 肺炎患者を診たら重症度評価を行うことが大事Q2 診断はつき,重症度を評価した.次に行うことは何でしょうか?(つづきは本誌をご覧ください) 参考文献
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