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●研修おたく海を渡る

第57回テーマ

口が滑ってしまったときは?

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 思わず言うべきでないことを口走ってしまったとき,あるいは,相手の表情に自分が期待したのと違う反応を見たとき,あなたならどうしますか?

 今回は,ワークショップで教わったコミュニケーションのコツについてまとめてみたいと思います.

 「あちゃー,そういうつもりじゃなかったのに」と,言ってしまったあとに思うことは,日常生活だけでなく,診療でも起こってしまいます.「患者に対して,医師は常に正しくあるべきだ」という医師の無謬性は,意識していなくても,目に見えないプレッシャーになっています.そのため,普通なら,「ごめん,ごめん」「今のなかったことにして」で済むことが,医師―患者関係になるとなかなかそうは言えません.「常に正しくある」ためにつじつまを合わせたり,そのまま話を進めようとすると,よけい混乱をもたらし,患者に不信感を引き起こすような結果になってしまうことが多いものです.

 そういったときは,無謬性のプレッシャーを棚上げします.一度,リセットして仕切り直せばいいのです.

 相手に戸惑いの表情を見て取ったら,「ちょっと待ってください.もしかしたら,僕が伝えたいことが伝わっていないかもしれません」とまた一からやり直すのです.

 あるいは「今のは変な質問ですね」「よくない聞き方でした」「ちょっと言い換えていいですか?」(“I am sorry, it is a dumb question.” “That is not what I want to say.” “Let me rephrase it again.”)と言っちゃっていいのです.

 もちろん,タイミングが大事です.だいぶ経ってからリセットしたら,混乱を引き起こしてしまいます.患者さんは誰も信じられなくなってしまうかもしれません.まずいことを言っちゃった,あるいは思ったことが伝わっていないと感じた時に,タイミングよく仕切り直す必要があります.こどもをしかるのと同じですね.

 「リセットしてもいいんだ」というのを聞いて,それからの診療がずいぶん楽になった気がします.僕も「医師の無謬性」に知らず知らず縛られていたのかもしれません.

 ほかにはどんなコツがあるでしょうか?

 気の利いたことが言えそうになかったり,なんて言っていいかわからないときに,「もう少し,聞かせてもらえませんか?」(“Tell me more.”)というのは使えます.

 あなたの話に,あるいは,あなたに関心がありますよという姿勢を崩さずに話を進めるいい方法です.困ったら“Tell me more.”です.試してみてください.

 “Name it.” “Rephrase it.”というのも何度も出てきた言葉です.患者の話の中に重要な言葉が出てきたと思ったら,「○○と感じておられるのですね」と繰り返す,あるいはあなたの言葉で言い換えることもテクニックの一つです.そのことにより,患者自身が,自分が言った言葉に気づくことができるのです.

 「相手の反応がいまいち読み取れない.自分の話の進め方でいいのだろうか」と,迷った経験は誰でもあると思います.そういったときは,「僕はこういうつもりで,ああいった説明をしましたが,どのように感じられましたか?」「どのように受け取られましたか?」と直接,患者に聞くのもありだそうです.

 「リセットする」「言い換える」「もう少し聞かせてください」.一度,実際の診療で試してみてください.

 ただ“Don’t try this at home!” とも言われました.夫婦げんかに使うと,火に油を注いでしまうかもしれません(^-^;).


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学で内科レジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.