●研修おたく海を渡る |
第53回テーマ マッチングの季節(2) 面接対策 白井敬祐(サウスカロライナ医科大学) 僕がフェローに応募したときにはエッセイだけで自分をうまく説明することに苦労しました.そこで自分の生い立ちからアメリカにたどり着くまでの「写真付きの自分史」を作って,願書に紛れ込ませました.「余計なことをして,変なやつだと思われないか」と迷ったのですが,「これをおもしろいと思ってくれるところに呼んでもらえればいいや」と逆セレクションのつもりで出しました.現在のERASというオンラインシステムでは,無理かもしれません.まだ応募書類が紙だった頃の裏技です.実は自分のアイデアではありません.ハーバードのMBAに入った部活の先輩に教えてもらった作戦なのです. 担当面接官の名前入りのスケジュールをもらってからが準備のしどころ,本気度の示しどころです.Google,PubMedを駆使して,面接官の専門分野を調べます.文献を読めれば,それに越したことはありませんが,中には数百の論文を書いているスタッフもいます.それでも抄録,いやタイトルだけでも目を通しておくとずいぶん違います.もちろん知ったかぶりをしてはいけません.面接官の研究に興味があると示すことができれば,あとは彼がひたすら自分の研究について話してくれることもあります.聞き上手に徹すればいいのです.誰でも自分の話を聞いてくれたら,いやな気分はしません.たぶん一緒に働きたいと思ってくれることでしょう. 誰を面接するか事前に教えられているにもかかわらず,当日まで書類に目を通していない面接官もいます.面接中に,書類をぱらぱらめくりながら,「○○先生は君のことが気に入ってるんだねー」とか,「アメフトやってたんだー」と話をふってくれます.「今までの臨床経験で一番つらかった体験は?」とか「もしone million(1億円)あったら,どんな研究する?」といったタフな質問もありました. うちのプログラムディレクターは自分で作ったテストを試しています. “When in Rome do as the Romans do”(郷に入れば郷に従えテスト)で落とされた人もいます.面接に中東の民族衣装を着てきたのです.彼も逆セレクションのつもりだったのかもしれませんが. 本連載の第17回「相思相愛」で書いたように“今年だめだったらどうするかテスト”というのもあります.「だめなら腎臓内科」と「来年も血液腫瘍内科」と,あなたならどちらを高順位にしますか? 大学ということで,研究に興味があるかどうかは,必ず聞かれます.実際に基礎あるいは臨床の研究に少しでもかかわっていないと,化けの皮がはがれてしまいます.血管新生に興味があると言ったある候補者は,一度も具体例を示せずに,血管新生を連呼して面接時間を終わってしまいました.これは言わずもがなですね. アメリカでも,手書きのThank you letterが多いのは意外でした.メールでの宛名間違いは,当落線上にいるときは致命的です.Johns Hopkins大学をJohn Hopkinsといって落とされた学生がいたなんて話も聞きます. もちろんすべての応募者をスタッフ全員が面接できるわけではありません.お互いのコメントをすりあわせて,ランク付けします. 「本当にうちにきたがっているか」「彼なら一緒に働ける!」「空席よりはいい」「研究実績か,バランスか」.空席を作らずにかついいフェローをとるために,侃々諤々の議論の末に順位を付けます.毎年ながら,応募するのが今年じゃなくてよかったと思わされる瞬間です. マッチまであと数カ月,どんな仲間が増えるのか,こちらも結構どきどきします. 白井敬祐 |