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●研修おたく海を渡る

第43回テーマ

新米指導医の生活――回診のコツ

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


アメリカの大学病院では,入院患者の回診は外来主治医が行うのではなく,病棟当番を決めて持ち回りで担当することが多いです.今回は僕のいる血液腫瘍内科の回診スタイルを紹介します.たとえば,僕は2週間を一つのブロックとして,1年間で2週間×6回で3カ月間,病棟当番が当たっています.もっとも僕はClinical Facutlyの中でも下っ端なので,これは多い方です.Professorだったり,研究メインの人だと,年に2週間×2で1カ月だったりします.ともかくこの2週間は,毎日病棟回診をするのです.

腫瘍内科の回診は,指導医,フェロー,レジデント,インターン,医学生,さらに抗がん剤を使うので薬剤師,薬学部の学生まで含めた大所帯でまわります.キャスターつきのコンピュータまでもお供に従えます.このコンピュータがまだ出ていなかった検査結果や,画像を見るには欠かせません.

各患者の部屋の前で,インターンが,夜中に起こったこと,患者さんの訴え,身体所見,検査結果,今日の見立てと,治療計画までをプレゼンするのです.事前に,お兄さん,お姉さんであるレジデントと相談しているので,かなりのことは網羅されています.腫瘍内科の専門的なところは,フェローが補足します.そのやりとりの中で,学生,インターン,レジデント,そしてフェローとそれぞれのレベルに合わせた質問(つっこみ)をするのです.

そのあとで,指導医が,じゃあこの計画で行こうと決めて部屋に入っていきます.患者さんと言葉を交わしながら,身体所見をとり,患者さんに,それまでの経過と今日の計画を指導医が説明します.当初の見立てとちがうことがあれば,その都度,計画に変更を加えます.部屋を出て時間があれば,さらに質問したり,ワンポイントレクチャーもします.指導医によっては,患者さんの前で,インターンにプレゼンをさせたりする人もいます.ぼくは,やったことありませんが.

患者さんのマネジメントを考えながら,「これはどない?」「こういうときは?」と,質問を放つのです.おたっきーな質問になりすぎずに,「かしこくなった」とか,「これは使える」と思ってもらえるお得感のあるつっこみをするのは,けっこう頭を使います.もちろん,定番の質問もあります.フェローなんかは,「来た来た」と思っているにちがいありません.できるだけ学生,インターンから質問をはじめて,レジデントが恥をかかないようにする配慮も必要です.インターンがわからないことは,レジデント,あるいはフェローがフォローしてくれることもあります.ここは,レジデントの経験,知識のみせどころなのです.

あまり反応がなかったりするときは,「このローテーションで身につけたいことは?」と聞いたりして,相手のニーズに応えるのも大事なことです.インターンが頼りなかったりすると,レジデントに「もうちょっと気をつけて,見るように」,レジデントがいまいちなときは,フェローに「頼むで」とお願いをします.ただ指導医が頼りにならないときは,神頼みです.

レジデントから回診の途中で,質問が来ることは,しょっちゅうです.自分の知っていることなら,“That is a good question !”と,(ラッキーと思いながら)さらっと応えます.自分の知らないことが飛んできたときは,“That is a good point !”と表情を変えずに,すかさず“Let’s see.”とお供のコンピュータでGoogle(検索する)のです.その場で答えが出せれば,もやもや感が残らず,最高ですね.

学生さんには,「これ明日までに調べといて」と宿題を出すのも鉄則です.たまには,カードフリップといって,テーブルに座りながら患者全員の報告を聞くこともあります.毎日が同じだと「だれる」ので,それを防ぐ工夫です.

こんなやりとりをしながらも,レジデントのヌーンカンファが始まる12時までに,回診を終えることを求められるのです.彼らの貴重な教育時間を奪ってはいけないのです.そして,長いような短いような2週間の最後には,指導医は,最後の日に昼ご飯をおごったりします.感謝の気持ちもあり,レジデント時代におごってもらったお返しでもあるのです.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学で内科レジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.