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●研修おたく海を渡る

第30回テーマ

がんプロ

白井敬祐


 がんプロになりたいという想いを胸に渡米して,すでに6年が経ちました.日本ではがん対策基本法の成立に伴い,がんプロ養成のための特別予算がついたという話を聞きました.

 well‐rounded oncologist,つまりバランスのとれたがんプロになるにはどうすればいいのでしょうか? 田舎の大学病院での経験ですが,これがよかったんちゃうかなぁと思うものを書きつづってみます.

 どうやって知識をつけて,経験値を上げるか?

 これには,やはりTumor Board(癌の症例検討会のこと→第18回参照)が一番だと思います.ただ座って聞いているだけでは効果は半減です.プレゼンして,フィードバックを受ける必要があります.

 腫瘍外科や放射線治療科などの他科との議論のしかたを学びます.アメリカでもやはりお互いをたてながら落としどころを探るのです.これにはポイントポイントでつっこみを入れてくれる指導医の存在は不可欠です.そのなかで鍵となる論文,studyを確認しながら,知識を増やしていきます.

 そのほかにはMeet The Professorという名のフェローのためのケースカンファレンスがあります.臓器別のがんの専門家の前で,疑問点や治療方針の確認をします.

 コアカリキュラムカンファといってフェローが主導で行うレクチャーもあります.2~3年を1つのサイクルとして,大腸癌,肺癌,乳癌などの頻度の高い腫瘍を中心に各フェローにテーマが割り当てられるのです.質疑応答を含めて60分で終わるように構成を考えながら,50~60枚のスライドを作るのです.眠らせないように,飽きさせないようにジョークも交えながらです.発表前には,指導医と確認します.もちろん当日も,指導医にはスーパーバイザーとして,参加してもらいます.うちは各学年3人,計9人の平均的なサイズのプログラムですが,年に3トピックほど回ってきます.準備も含めて結構きついですが,疾患に対する理解はずいぶん深まります.

 次は同僚と過ごす時間です.フェローのたまり場となるフェロー部屋にいる間は,できるだけ自分の経験した症例をプレゼンしshareして,もう一回自分の知識を再確認します.しゃべっているといかに自分があいまいにしか理解していなかったか,同僚がよく知っているか,反省させられます.もちろん“Ridiculous!”(「やってられんなぁ.」)といったぐちもありですが…….

 なかなかそんな気になれないと思うかもしれませんが,フェローシップが終われば,ボードと呼ばれる専門医試験が控えています.うかうかはしていられません.トレーニング中には,イントレーニングイグザムという「そのままやんけ」とつっこまれそうな試験もあります.ボードとは異なり,これが悪いとどうのこうのというわけではないのですが,自分のプログラムのなかだけでなく全米中のフェローのなかでの自分の位置がわかるのです.というわけで,ところどころに試験があるので,フェロー同士でちょこちょこ勉強会を開いたり,問題を解いたり,そういった時間は多いと思います.そんな時間がとれるなんて,日本と比べるとのんびりしていていいなぁと思われるでしょうが,これが確保されないとボードに通るのはなかなか難しいのではないでしょうか.

 あとは,開業医や,フェロー向けに教育カンファがあちこちで開かれています.ASCO(全米臨床腫瘍学会)やASH(全米血液学会)のあとには,必ずレビューが開かれます.こういうのに参加したりするのも1つの手です.重要な発表だけをかいつまんでくれるので,臨場感はないですが,時間対効果のお得感があります.

 最後に「ひとり勉強」の方法を書こうと思ったのですが,いろいろとおもしろいものがあり紹介しきれそうにありません.次回にさせてください.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.