HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻13号(2007年12月号) > 連載●研修おたく海を渡る
●研修おたく海を渡る

第24回テーマ

食事は大事!

白井敬祐


 アメリカの食事というと,ハンバーガーを連想してしまう方もおられるでしょう.実際,病院食にもハンバーガーが出てきます.食事にはジンジャーエールがついてきます.糖尿病の人には,一応ダイエットジンジャーエールです.バースデーケーキと称して,誕生日にはとてつもなく甘いケーキがついてくることもあります.野菜の多くは冷凍物をレンジで温め直した豆だったり,にんじんだったりします.こちらのよいところは,メインでもデザートでも前日に選べるところでしょうか.

 術後の食事として日本のおかゆにあたるものは,「チキンブロス」と呼ばれる鶏肉のだしでとったスープや「Jello」と呼ばれる子どもが喜ぶ甘いゼリーになります.「人生の最後をこんな食事で過ごしたくない」と,食事を理由に退院された患者さんもいました.

 がん検診や,抗がん剤の宣伝がアメリカでは非常に盛んです.処方箋なしでは買えない薬も,がんがんテレビコマーシャルが流れます.がん撲滅宣言も派手に行われます.一方で,肥満はかなりのスピードで増えているそうです.2000年の時点ですでに国民の6割以上が,BMI(body mass index)を使うと肥満あるいはover weightにあてはまるそうです.肥満と関係があると言われているがんは,乳癌,大腸癌だけでなく,卵巣癌,腎癌,膵臓癌などと多岐に渡ります.研究費と宣伝費のつぎ込まれた高い抗がん剤を使って治療するより,肥満対策にそれ以上のお金を使ったほうがいいのではないかと思ってしまいます.

 もちろんそれではビジネスにならないのでしょう.「Bariatric surgery」と呼ばれる病的肥満のための胃バイパス手術は「メディケア」(アメリカ政府が運営する高齢者医療保険制度)でもついに認められるようになりましたが…….これも予防ではなく,いってみれば後手に回った治療です.

 そういう僕も,確実に体重,余計な肉がつきました.仕事帰りにふらっと立ち寄れるラーメン屋や,おにぎり,おでんのつまめるコンビニなどのない,アメリカの田舎町です.仕事の後は脇目もふらずに家に帰るのですが,カンファレンスにでてくる朝のドーナツ,昼のハンバーガーやピザに必ずついてくるポテトチップスや,クッキーについつい手がでてしまいます.自転車通勤を断念し,アメリカの車社会に身を投じた代償なのかもしれません.僕もこの8月から,67歳のプロフェッサーと一緒に週2回5kmのジョギングを始めました.意識して,食事,運動を心がけないと健康には過ごせない社会のようです.

 子どもたちが現地の小学校に通っているのですが,給食もホットドッグ,ハンバーガー,マカロニチーズ,ピザなどと健康的な食事とはかけ離れています.ここでもランチの後に,チップスと呼ばれるポテトチップス系のスナック菓子がついてきます.「好きな野菜は?」と子どもに聞いたら一番多い答えが「フライドポテト」だったなんて話を,朝のニュースでやっていました.残したものは,何の未練もなく子どもたち本人の手によって,ゴミ箱に投げ捨てられていきます.“MOTTAINAI”「もったいない」という感覚は,あまりみられないようです.

 夏休みに,子供たちを日本の小学校に体験入学させたのですが,給食はバランスよくつくられていておいしそうで感動しました.しかも温かい.意外と,この日本の学校給食は世界に誇れる食育なのかもしれません.

 注:MOTTAINAI:http://en.wikipedia.org/wiki/MOTTAINAI


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.