HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻9号(2007年9月号) > 連載●研修おたく海を渡る
●研修おたく海を渡る

第21回テーマ

緩和ケアチーム
Palliative Care Team

白井敬祐


 ICUの患者は,時間単位で刻々と容態が変わります.数日の滞在でよくなる患者もいる一方,まったく回復の見込みがもてない状況に陥る患者もいます.担当医が家族に合わせて,患者の状況をタイミングよく説明するというのは,なかなか難しいことです.

 「窓口をひとつにして,その人に他の家族には説明をしてもらいなさい」などともよく言われますが,時間的,空間的なすれ違いはどうしても起こります.そういうことが続くと,感情面でも家族とのすれ違いが起こってしまうことがあります.そんな気配があるときが,Palliative Care Teamの出番です.

 彼らは,近くに住む家族だけでなく,遠く離れた家族とも根気よく電話連絡をとったり,必要であればFamily Meetingを設定したりします.できてしまった溝をうめるために,下準備のいる地道な仕事です.別名リスクマネジメント部隊とも言われています.感情面のすれ違いが訴訟の大きな原因であるからでしょう.

 electiveと呼ばれる選択ローテーションで,palliative careをレジデント時代にもとったのですが,「ひたすら聞く」仕事だという印象をもちました.家族の不安や不満,疑問点をじっくり聞き,共有し,それを主治医に伝える役も果たしていました.「それは違う」とか「実はこうだ」などとは言わずに,家族の気持ちをそのまま受け止めるのです.夕方の5時には,さぁーっと帰ってしまうアメリカでも,Family Meetingは,家族の都合を考えて夜に開かれることもありました.これはアメリカの勤務体系からはなかなか考えにくいことですが,Palliative Care Teamでは,普通にみられることでした.

 患者さんが亡くなったあとの家族のフォローも彼らが助けてくれます.気持ちを切り替えて次の仕事に移らないといけない医師に代わり,家族の横にじっとすわり,ただ手をにぎっていたり,肩をさすったり,文字通りサポートするのです.短いけど濃密な時間を,共有するので,家族ともうち解けるのでしょうか.あまり違和感のない風景でした.小さな子どもたちにも,「いつ,どのようにして,患者と面会させるか」細かく気を配るのです.

 ローテーションを通して,何度も強調して教えられたのは,患者と家族をひとつのユニットとしてとらえなさいということでした.とかく個人が第一とされているアメリカでのこの教えは,非常に心に残っています.「患者自身の思いも大事だが,患者の思い出を心にとどめて,残りの人生を過ごす家族もそれ以上に大事なのだから」と.

 患者の亡くなったあとも,思い出話をするために,Palliaive Care Teamに会いにやってくる家族も,少なくはありませんでした.

 ここまで書くと,なんてすごい人たちなんだろうと思うのですが,やはり人間です.Family Meetingが終わり,自分たちの隠れ家に戻ると,「今日は息が詰まって死にそうだった」とか「なんて大変な家族だ」「いやだ,いやだ」なんてやっているのです.ただそんなことを言いながらも,数々の修羅場をみてきたteamの面々は,家族の心を癒すプロなのです.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.