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研修おたく海を渡る

第3回テーマ

Retreat(2) みんなできがいいわけじゃない

白井敬祐


前回よりつづく

「インターンをどう教えるか,扱うか?」

 これが2年目になってすぐのRetreat(注1)のテーマでした。

 「インターンは,レジデントがうまく入院患者をmanageするための重要な戦力,チームの一員です。知識が豊富でefficientなインターンが自分の下についたらluckyだと思いなさい。あとはインターンに思う存分働いてもらいましょう。問題は,できの悪い,あるいは難しいインターンを持ったときにどうするかです」と冒頭にテーマの説明がありました。

 そのあと前回と同様,小グループに分かれます。

 「ええ加減にしろ」ともろに衝突したり,WINWIN(双方勝利)を意識したシナリオなどビデオ教材を見ながら研究します。遅刻ばっかりするインターン,自信過剰なために報告なしに勝手に処理してしまうインターン,あるいはレジデントを夜中起こさないように気を遣いすぎて一人でがんばってしまうインターンが次々と登場してくるのです。

 「決して人格を否定するようなものの言い方になってはいけない」,「問題点を具体的にして,その点だけを注意する」などがポイントとして与えられました。怒り方のこつとして日本でもよく言われていることではあります。あまりずけずけ言うのではなく「diplomaticになる」ときも必要だと盛んに繰り返されました。患者さんを中心に,ナース,ドクター含めたスタッフが全体として機能するために「diplomaticになる」ことが,リーダーとして欠かせないスキルだからだそうです。

 ロールプレイではみんな思い思いのdiplomaticぶりを披露してくれます。「俺もやったよ」と優しく諭すものもいれば,「あまりずけずけと言うのではなく……」と前置きがあったにもかかわらず,ズバッと指摘して「2度とすんな」と言いきるやつまでいてなんでもありだなぁと感じました。彼曰く「はじめが肝腎」ということです。

 最後に強調されたのは,ミスが増えるのは,過労やうつの前兆でもあるので,レジデントはインターンが疲れたら疲れたと言える環境をつくる必要があり,またお互いに言えるための練習も重要だということでした。「まず指導医がそういった雰囲気づくりを」とレジデント側からはすかさず要望が出されました。「俺の若い頃は……」というのはアメリカでもよく聞くせりふだからです。週80時間ルール(注2)が導入された最近では,レジデント同志でもこのせりふが多用されています。

 「インターンはみんなできがいいわけではない」という点を認めたうえで,ならどうするかと考えていくところは実践的だと感じました。また疲れたら疲れたと言える環境づくり,それを言うための練習はやはり大事なことです。

 日頃の練習の成果もあってか“I have too many patients. We are here for training, not for babysitting.”“This is just a scutwork.”などといった声がよく聞かれます。そうしたインターンをなだめすかしたり,「やってられんよなぁ」と一緒に怒ったりするのもレジデントの仕事なのです。

(注1) レジデント対象に開催されるワークショップの一つ。参加している間は,病棟業務から解放される(本連載第2回参照)。
(注2) 週80時間ルール 研修医の長時間勤務が,研修医のみならず,患者にも不利益を及ぼす可能性から2003年より全米で導入されたルール。週の勤務時間を当直含めて,80時間以内に収める必要がある。ニューヨークなどいくつかの州はこれ以前から同様のルールがあった。これを満たさないとプログラム自体が取り消されることもある。


白井敬祐
1997年京大卒。横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする。2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow)。米国内科認定医。