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研修おたく海を渡る

第1回テーマ

プレゼン,プレゼン,プレゼン

白井敬祐


 第一回目は,「プレゼン,プレゼン,プレゼン」です。

 アメリカに来て,はじめに圧倒されたのはプレゼンの回数です。プレゼンといっても,大勢の前で話すオフィシャルなものから,回診中に廊下で2~3分に短くまとめるプレゼンまでいろいろあります。細かくねちっこく攻めるプレゼンから,関係あることだけ,変わったことだけでさらっとすませるプレゼンもあります。一日に最低でも30回は何らかの形でプレゼンをするのではないでしょうか。フルプレゼンテーション,ファイブミニッツプレゼンテーション,スリライナー(3行ですませる),ワンライナー(1行ですませる)などと,ていねいに名前までいろいろあります。

 具体的な例を挙げましょう。

 例えばERから一人入院させようと思ったら,まずERの指導医にプレゼンして方針を決めて入院が必要だと思ったら,かかりつけ医(もちろん当番制です)に報告してOKをとります。

 入院が決まったら,病棟指導医に連絡してから,実際に入院をとるレジデントに申し送って最後に受話器に向かってディクテーション)と最低でも5回はプレゼンです。この間に検査の結果が帰ってきたり,患者の状態が変わったりもするので,さらにプレゼンの回数が増えます。これに他科コンサルトでもつけたされると……。

 最初はとてもつらかったです。顔を見て話せるときはいいですが,電話になると大変でした。ただ人間なんでも慣れるものです。毎回ちょこちょこ,時にはぼこぼこにつっこまれて仕上がっていきます。

 専門科ごとにつっこんでくるポイントの違いや,指導医の性格によっての使い分けが少しずつわかるようになってきます。しゃべることで自分のあいまいなところ,わかっていないところが,はっきりします。不覚にもつっこまれたことはくやしくて忘れることができないものです。ずるくなってくると,つっこまれそうなところはあえてプレゼンに入れなかったりもしたこともありますが。

 おんなじ指導医でも,電話をかける時間帯によって対応も変わってくるので要注意です。

 昼間はみっちりと職業歴から,「何年糖尿もってるんや」とか聞いてくる人でも,夜の2時ぐらいだと「ほんで,用件はなんや!」という感じになります。当然ですね。

 相手の気分と,状況を読んだプレゼンが必要です。

 いまだに受話器の向こうを察するのは難しいです。時には当直中に,朝の3時なのに,なぜこの薬を選んだかをとうとうと説明してくれるありがたい指導医もいます。

 とにもかくにもアメリカは日本に比べると,圧倒的にホウレンソウが必要なシステムになっているような気がします。

「I just want to make sure we are on the same page.」とか「Are we on the same page?」といった問いかけがよく出てきます。「みんな,がってん?」とか「了解?」といった感じでしょうか。

(注)ディクテーション:診療記録をテープあるいは電話回線を通じてメッセージボックスに録音します。プロがテープ起こしをしたものを,校正してサインします。


白井敬祐
1997年京大卒。横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする。2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow)。米国内科認定医。