HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻10号(2008年10月号) > 今月の主題「理解のための27題」

今月の主題

「理解のための27題」


問題01

32歳,男性が2カ月間の咳・発熱・寝汗・体重減少を主訴に救急外来を受診した.既往歴なしで,10カ月前に刑務所に入った際のHIV検査とツ反は陰性である.喫煙なし,渡航歴なし.体温38℃以外のバイタルは正常である.身体所見での陽性所見は右肺にcoarse crackleが聞こえる.胸部X線では右上葉に浸潤影がある.喀痰は採取できなかった.この患者に最も適切な初期治療・対応はどれか.1つ選べ.

A:セフトリアキソン2g静注24時間ごと
B:ペニシリンG300万単位静注4時間ごと
C:セフォタキシム2g静注8時間ごと+アジスロマイシン500mg経口24時間ごと
D:レボフロキサシン600mg経口24時間ごと
E:空気感染隔離


問題02

肺炎が疑われる患者の喀痰グラム染色結果から次の起因菌を推定したが,患者はβ-lactam薬に重症アレルギーがある.選択薬剤として適切ではないのはどれか.

A:グラム陰性桿菌で周りに莢膜が認められた…レボフロキサシン
B:ブドウの房のような配列をしたグラム陽性球菌…バンコマイシン
C:グラム陰性短桿菌…スルファメトキサゾール・トリメトプリム
D:グラム陰性球菌…ミノサイクリン
E:グラム陽性双球菌…エリスロマイシン


問題03

成人市中肺炎ガイドラインの適用について,誤っているのはどれか.1つ選べ.

A:CURB-65の指標に従って,はじめからICUで治療を開始した.
B:自施設の肺炎球菌耐性率に基づいて,独自のガイドラインを作成した.
C:入院加療が必要な患者に喀痰塗抹,培養検査と血液培養を実施した.
D:IDSA/ATSのガイドラインに従い,外来の肺炎治療にアジスロマイシンのみを処方した.
E:A-DROPでは外来治療に該当したが,見た目が疲弊しており一人暮らしであったので,入院で治療を開始した.


問題04

下記のうち,正しいものを1つ選べ.

A:ATS/IDSAガイドラインでは,院内肺炎の患者すべてに3剤の抗菌薬使用を推奨している.
B:ATS/IDSAガイドラインは対象患者に免疫不全患者も含んでいる.
C:日本呼吸器学会のガイドラインは,院内肺炎治療にあたりグラム染色を重視している.
D:日本呼吸器学会のガイドラインは,入院から肺炎発症までの期間を考慮して抗菌薬治療することを推奨している.
E:院内肺炎の治療は,ガイドラインが推奨する抗菌薬を使用するのが一番良い.


問題05

次のうち,正しいのはどれか.1つ選べ.

A:肺炎の診断において病歴・身体所見で診断的価値が高いものはないので,病歴・身体所見は役に立たない.
B:肺の副雑音は全世界共通でよく浸透しており,合致率も高く,各studyでも診断的価値が高いとされている.
C:一般に肺炎では治療経過とともに,cracklesはcoarseからfineに,phaseも呼気終末にかけて短くなる.
D:肺炎はいったん診断をつければ,病歴や身体所見で再確認する必要性が少ない.
E:肺炎であれば,胸部X線で新たな異常陰影がほぼ全例に認められる.


問題06

70歳,女性.数時間ほど前から発熱,呼吸苦が出現したと救急外来を受診.2~3日前から風邪をひいていたとのことであった.裁縫の仕事で毎日椅子に座って長時間作業をしている.救急外来では体温37.6℃,呼吸数28回/分.胸部ラ音を聴取し,両下腿浮腫を認めた.検査所見では,WBC12,100/μl,Hb12.1g/dl,Ht37.3%,Plt14.4×104/μl,BUN16mg/dl,Cr0.8mg/dl,Na136mEq/l,K4.4mEq/l,Cl99mEq/l,CRP8.8mg/dl,BNP204pg/ml,尿検査では潜血(1+),白血球(2+),細菌(1+)であった.
以下のうち,最も可能性が低いと思われるものを1つ選べ.

A:急性心不全
B:肺炎
C:尿路感染症
D:結核
E:肺塞栓症


問題07

症例:32歳,男性.統合失調症にて単科精神病院に入院していたところ,発熱,呼吸困難を訴え,肺炎と診断された.喀痰培養を採取されないまま,セフトリアキソンで治療を開始された.いったん解熱するも呼吸回数35回で酸素飽和度88%(room air)と呼吸状態が悪化したため,転院搬送されてきた.喀痰のグラム染色で集塊状のグラム陽性球菌を多数認めた.喀痰の質は良好で白血球のみで●平上皮は少数であった.適切な選択肢はいずれか.

A:若い男性でもあり,誤嚥性肺炎の可能性もあるので,経過を1日だけ観察して,悪化すれば治療する.
B:院内発症の肺炎であり,緑膿菌を狙い,セフタジジムを投与開始する.
C:バンコマイシンまたはテイコプラニンを開始し,喀痰培養の結果を待つ.
D:いきなりグリコペプチドを使用せずに,黄色ブドウ球菌を狙ってセファゾリンを開始する.
E:肺炎球菌を狙って,セフトリアキソンを開始する.


問題08

日本呼吸器学会で設けている非定型肺炎鑑別の診断基準に含まれない項目はどれか.2つ選べ.

A:年齢60歳未満
B:比較的徐脈がみられる.
C:胸部聴診所見が乏しい.
D:肺炎が家族内,集団内で流行している.
E:喀痰がない,あるいは迅速診断で原因菌らしいものがない.


問題09

68歳,男性.慢性閉塞性肺疾患の治療を受けている.1週間前にインフルエンザの診断を受け,タミフル®による治療を終えたばかりである.2日前からの発熱,湿性咳嗽にて来院.身体所見にて38.4℃の発熱,胸部に右下肺野のラ音あり.胸部X線写真上,右上肺野に浸潤影あり.喀痰を採取するも不良喀痰にて非診断的であった.エンピリックな治療として,投与すべき抗菌薬を選べ.

A:バンコマイシン
B:セフトリアキソン+バンコマイシン+アジスロマイシン
C:モキシフロキサシン
D:セファゾリン
E:セフトリアキソン+アジスロマイシン


問題10

重症肺炎に対する治療のうち,大規模無作為比較対照試験で死亡率の低下が認められ,標準的治療と考えられているのはどれか.1つ選べ.

A:市中肺炎に対するステロイド
B:HIV患者のカリニ肺炎に対するステロイド
C:多価静注免疫グロブリン
D:エンドトキシン吸着療法
E:非好中球減少時のG-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)投与


問題11

市中肺炎の治療効果をみるうえで,参考にならないことが多いものを1つ選べ.

A:胸部X線写真上の浸潤影
B:心拍数
C:発熱
D:動脈血酸素飽和度
E:呼吸数


問題12

市中肺炎の重症度を評価する際,必要のないものはどれか.1つ選べ.

A:意識レベル
B:呼吸数
C:血圧
D:年齢
E:CRP


問題13

70歳男性,施設入所中.以前から食事中にむせることが多かったという.既往に糖尿病があり経口血糖降下薬内服にて治療中である.来院3日前から咳嗽を認めていたとのこと.来院当日から38℃の発熱と食欲低下を認めたため来院.来院時のバイタルサインは意識レベルクリア,体温38.1℃,血圧155/90mmHg,脈拍103bpm,呼吸数34回/分,SpO295%(カヌラ4L)であり,身体所見上は右背側の下肺でcrackleを聴取し胸部X線写真にて右下肺に浸潤影を認めた.そのときの喀痰グラム染色ではさまざまな菌が認められ,有意な菌を認めなかった.そのため誤嚥性肺炎と診断しセフトリアキソン1g1日1回投与にて治療を開始した.治療開始後3日経過したときのバイタルサインは意識レベルクリア,体温37.8℃,血圧145/86mmHg,脈拍92bpm,呼吸数28回/分,SpO296%(カヌラ4l)であり,右背側でcrackleを聴取すると共に呼吸音の減弱を認め,胸部X線写真では右下肺の透過性低下を認めた.以下のうち不適切なものはどれか.1つ選べ.

A:嫌気性菌をカバーする抗菌薬に変更
B:気管支鏡
C:血液培養2セット
D:胸部CT
E:経過観察


問題14

次のうち,耐性菌の認められる可能性の高い患者を選べ.

A:20歳,男性.既往歴なし.3日間の発熱,黄色痰を伴う咳を認め,来院.
B:82歳,男性.発熱により長期療養施設より転送.
C:65歳,男性.10年前に肺癌と診断されたが,手術を受け,その後再発なし.ここ数年は年に1回の外来フォローアップのみ.
D:36歳,女性.週3回,血液透析を受けている.


問題15

次のうち,正しいものを1つ選べ.

A:院内肺炎の診断基準(発熱,膿性痰,X線異常)の感度・特異度は高い.
B:院内肺炎の治療期間は全例7日間である.
C:院内肺炎の原因菌は市中肺炎のそれとは異なる.
D:院内肺炎の最初の抗菌薬選択にグラム染色の情報は有用ではない.
E:VAPは死因の独立因子であるという明確なエビデンスがある.


問題16

正常免疫者における病院肺炎の原因菌として,考えにくい微生物はどれか.1つ選べ.

A:Pseudomonas aeruginosa
B:Enterobacter cloacae
C:Stenotrophomonas maltophilia
D:Candida albicans
E:Staphylococcus aureus


問題17

誤嚥性肺炎に比べて化学性肺臓炎の特徴として当てはまるものはどれか.

A:脳梗塞後の嚥下障害のある患者に多い
B:抗菌薬が必要である
C:口腔咽頭に付着した細菌を吸引することで発症する
D:比較的誤嚥する瞬間が目撃されやすい
E:口腔内が不衛生な患者に起こりやすい


問題18

好中球減少患者の肺炎で起因菌として,不適当なものはどれか.2つ選べ.

A:Pseudomonas aeruginosa
B:Aspergillus fumigatus
C:Candida albicans
D:Klebsiella pneumoniae
E:coagulase-negative staphylococci


問題19

下記の患者で明らかにPcPに対する予防内服を推奨されるのはどれか.2つ選べ.

A:38歳,女性.HIV患者.CD4数は450/μl.HIV以外に既往歴なし
B:65歳,男性.交通事故後に脾臓を摘出
C:45歳,女性.Wegener肉芽腫に対して,8週間前にシクロホスファミド+プレドニゾロンが開始後漸減され,現在はプレドニゾロン20mgでコントロールしている
D:57歳,男性.大腸癌の患者.進行癌に対して5FU+イリノテカンの化学療法を施行予定
E:42歳,男性.HIV患者.CD4数は132/μl


問題20

以下のうち,脾摘後敗血症(postsplenectomy sepsis:PSS)の起炎菌となる,encapsulated organismsはどれか.2つ選べ.

A:緑膿菌
B:肺炎球菌
C:黄色ブドウ球菌
D:インフルエンザ桿菌
E:セラチア菌


問題21

鳥インフルエンザA(H5N1)について,正しいものを次の選択肢から選べ.

A:野鳥での報告はあるが,ヒト感染例は報告されていない.
B:確定診断は,迅速検査で行う.
C:鼻汁のほうが咽頭ぬぐい液より検出感度が高い.
D:インフルエンザと比べて,典型的な臨床症状がある.
E:問診で鳥との接触歴などの聴取が有用であることがある.


問題22

バイオテロに使用される可能性がある以下の病原体のうち,最も危険なものはどれか.1つ選べ.

A:コレラ
B:赤痢
C:サルモネラ
D:オウム病
E:野兎病


問題23

NPPV(非侵襲的陽圧換気法)の適応として,最も適切と思われるものはどれか.1つ選べ.

A:誤嚥を繰り返す意識状態が悪い重症肺炎患者の呼吸管理
B:気道熱傷を伴う重症熱傷患者の呼吸管理
C:痙攣重積の患者の呼吸管理
D:肺炎を契機としたCOPD急性増悪患者の呼吸管理
E:多発肋骨骨折,顔面外傷を伴う外傷患者の呼吸管理


問題24

次のうち,間違っているものを2つ選べ.

A:膿胸の原因は肺炎後,および外傷後が大半を占めており,他の原因はほとんどない.
B:肺炎随伴性胸水,膿胸では穿刺液のグラム染色が陽性とならない場合も少なくない.
C:肺は好気的な環境であるため,胸腔内感染である膿胸の場合も嫌気性菌の関与は少ない.
D:肺炎随伴性胸水,膿胸を疑ったら,原則的には穿刺が必須である.
E:肺炎随伴性胸水,膿胸の治療のためにストレプトキナーゼなどの線維素溶解薬を胸腔内投与することがある.


問題25

市中肺炎の予防に関して,間違っているものはどれか.1つ選べ.

A:2006年現在,肺炎による死亡率は年齢とともに増加していき,90歳以上の死因のなかでは肺炎がトップを占めている.
B:肺炎球菌ワクチンの予防接種は,インフルエンザワクチンと同様に毎年受けることができる.
C:IDSA/ATSのガイドラインでは,肺炎球菌ワクチンの接種は65歳以上の高齢者,2~64歳でリスクのある人,喫煙者に推奨されている.
D:インフルエンザワクチンの接種によって,高齢者の肺炎による入院後の死亡率を下げることができる.
E:市中肺炎の予防には,禁煙することが重要である.


問題26

日本における院内肺炎・VAP(ventilator-associated pneumonia)予防について誤っているものを2つ選べ.

A:できるだけ気管挿管や人工呼吸は避け,非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)を使用する.
B:人工呼吸器の回路は定期的に交換する
C:気管チューブのカフ上部を持続的あるいは間欠的に吸引する.
D:ベッド上では45°以上の半坐位で患者を管理する.
E:口腔ケアの一環として,グルコン酸クロルヘキシジン(CHX)を口腔粘膜に塗布する.


問題27

誤嚥性肺炎の予防に関して,誤っているものはどれか.1つ選べ.

A:毎日行う口腔ケアで誤嚥性肺炎の発症を抑制できる可能性がある.
B:脳梗塞後の日本人の患者にACE阻害薬を使用することで誤嚥性肺炎の発症を抑制できる可能性がある.
C:寝たきり患者に対する誤嚥性肺炎の発症予防に関して,臨床試験が多く行われてきた.
D:誤嚥性肺炎の発症予防に明らかに優れた食事形態は報告されていない.
E:半座位の施行により,誤嚥性肺炎の発症を抑制できる可能性がある.


(解答は本誌掲載)