●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応 | |||||||||||
第9回 摂食障害 中尾睦宏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学・心療内科) 心療内科では摂食障害を診る機会が多い.例えば東京大学医学部心療内科の外来統計では,初診患者の約12%が摂食障害のため来院していた1).摂食障害のなかでは「神経性食欲不振症」と「神経性過食症」が一般的であるが,これら2つの疾患は相反するものではなく,多くの特徴を共有している2,3).両者の診断基準を満たさない摂食障害は「非定型的(もしくは特定不能の)摂食障害」と呼ばれ,特に「むちゃ食い障害(binge eating disorder)」が最近注目されている4).摂食障害とは,食行動の持続的な障害で,西洋社会では若い女性の主要な疾患となっている.身体的な健康や心理社会的な機能に影響を及ぼし,心身両面に重大なダメージを与えることが多いので,内科医としては一通りの知識は押さえておきたい. ■神経性食欲不振症米国精神医学会の提唱する神経性食欲不振症の診断基準(DSM-IV-TR)5)を表1に示す.診断基準のうち,著しい低体重を自ら積極的に維持していることが神経性食欲不振症の重要な特徴である.低体重の定義はさまざまであるが,この基準のように,標準体重と比べて何%減少しているかで判断することが多い.body mass indexで17.5kg/m2以下といったように絶対尺度で定義することもある.体重減少の方法としては,徹底したダイエットや絶食,過度な運動,自ら嘔吐することなどが挙げられる.神経性欲不振症患者のなかには神経性過食症にみられるような過食エピソードをもつ者がいる.こうした場合,まず神経性食欲不振症と診断し,過食症状が伴っていると考える.
2番目の診断的特徴となるのはこの痩せに対するこだわりである.体型や体重に対する態度や考え方が非常に頑固で特徴的なものとして現れる.「痩せへの飽くなき追求」や「肥満への病的な恐怖」といった認知の問題は,この障害の中核となる精神病理である.体型と体重に対する関心度は,若い現代女性がもつ容姿や体重への不満とは比較にならないほど強烈である. 神経性食欲不振症の患者数は,日本を含め先進諸国全般で増加傾向となっている.15~20歳の女性が最も発症しやすく,おおよそ1,000人中0.5~2.5人の範囲と推計されている. 診察時の症候としては,寒がり,便秘,食後の満腹感,腹部膨満感といった身体症状のほか,落ち着きのなさ,焦燥感,脱力感,早朝覚醒など精神症状を有することが多い.思春期になったばかりの女性では,成長が阻害され,乳房の発達が不十分なことがある.下垂体機能低下症の患者とは異なり,陰毛は保たれ,乳房は萎縮しない.柔らかいうぶ毛が,背中,腕,顔の側面に生えていることもある.典型例では,皮膚は乾燥し,四肢は冷たく,血圧と脈拍は低い.浮腫を認めることもある. 血液検査では,正球性・正色素性の貧血,軽度の白血球減少,低血糖,電解質異常などがみられることがある.頭部CT検査では,脳皮質溝や脳室の拡大が指摘されている.これらの所見は多くの場合,可逆性である. (つづきは本誌をご覧ください) 文献
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