HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻4号(2007年4月号) > 連載●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応
●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応

第4回

社会不安障害

中尾睦宏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学・心療内科)


 社会不安障害という用語は,耳慣れない先生がいらっしゃるかもしれない。「対人恐怖」とか「赤面恐怖」といった方が病態を連想しやすいであろう。しかしながら,厳密に定義すると社会不安障害は少し異なる病態なので気をつけたい。


 まずは概念を整理してみる。

 社会不安障害とは,人々と交流しなければいけない場面で強い緊張や恐怖を感じ,過度に恥ずかしがったり他者からの評価を恐れる精神疾患である。日本では1世紀以上前から「対人恐怖症」が臨床的に注目されていたが,文化の違いもあって欧米人には理解されなかった。国際的には恐怖症の1つとして社会恐怖(social phobia)という別の分類があったが,臨床や研究面で軽視される状態が続いていた。ところが,社会恐怖は欧米でも稀でないことがさまざまな疫学調査で明らかとなり,患者によっては屈辱的で受け入れにくかった社会恐怖という病名が社会不安障害(social anxiety disorder)と改称されるに至り,ここ10年で一気に国際的な注目を集めるようになった。。。

表1 社会不安障害の診断基準(以下のすべての基準を満たすこと)
  (文献1より筆者が意訳して引用)
  1. 他人の注視を浴びるかもしれない社会的状況(または他人の注視を浴びるかもしれない行為をする状況)に対して顕著で持続的な恐怖を抱く。
  2. そうした社会的状況に曝されると,ほとんど必ず不安反応が誘発される。パニック発作の形をとることがある(連載第3回を参照)。
  3. そうした社会的状況への恐怖が過剰である,または不合理であることを認識している。
  4. そうした社会的状況(またはそうした行為をする状況)を回避しようとしている。回避できないときは,強い不安または苦痛を伴いながら耐えている。
  5. そうした社会的状況(またはそうした行為をする状況)を回避するため,または予期不安のため,または実際に苦痛を有するため,その人の毎日の生活習慣・職業(学業)上の機能(または社会活動や他者との関係)が障害されている。または障害がなくても,その恐怖症のため感じる苦痛がきわめて大である。
  6. その恐怖または回避は,物質または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではなく,他の精神疾患ではうまく説明されない。他の身体・精神疾患が存在している場合でも,そうした疾患と診断基準1の恐怖との関連がない。

表2 プライマリケア医(n=64)が診療する社会不安障害の症状
診療人数 >5人 3~5人 1~2人 0人
(1)観客の前で話す 9(14 ) 11(17%) 9(14%) 34(54%)
(2)知らない人達と話す 9(14%) 8(13%) 5(8%) 41(65%)
(3)初対面の人に会う 7(11%) 10(16%) 9(14%) 37(59%)
(4)権威者と話す 4(6%) 8(13%) 6(10%) 46(72%)
(5)みられながら書字 2(3%) 5(8%) 7(11%) 50(78%)
(6)公共の場での飲食 1(2%) 1(2%) 9(14%) 53(83%)
(7)公衆トイレで用を足す 1(2%) 3(5%) 3(5%) 56(89%)
「プライマリケア医のための社会不安障害研究会(世話人:村上,藤田,松野,中尾)」にて,都内北西部の内科開業医の先生方を中心にアンケート調査を実施(2005年10月)。データはその集計結果 [(1)(2)(3)(7)は欠損値1名あり] 。

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)American Psychiatric Association:Diagnostic and statistical manual of mental disorders, text revision. American Psychiatric Press, Washington D.C., 2000
2)Sheehan DV, et al. (大坪天平ほか,訳):M.I.N.I.―精神疾患簡易構造化面接法,星和書店,東京,2003
3)上島国利:社会不安障害(Social Anxiety Disorder)の治療における進歩.臨床精神薬理 5:433-447, 2002
4)Kessler RC, et al.:Lifetime and 12-month prevalence of DSM-III-R psychiatric disorders in the United States:Results from the National Comorbidity Survey. Arch Gen Psychiatry 51:8-19, 1994
5)小山司(編):社会不安障害治療のストラテジー.先端医学社,東京,2005


中尾睦宏
1990年東京大学医学部卒業。東大病院で内科研修をして心療内科に入局。1996年に東京大学医学系大学院(心身医学)修了。2000年にハーバード大学公衆衛生大学院(臨床疫学)修了,ハーバード大学医学部心身医学研究所内科講師。2001年に帰国し,現在,帝京大学医学部衛生学公衆衛生学助教授・附属病院心療内科副科長。専門は心身医学,行動医学,職場のメンタルヘルスなど。