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●成功率が上がる禁煙指導

第3回テーマ

保険診療での禁煙治療のテクニック1

安田雄司(医療法人啓生会やすだ医院/NPO法人京都禁煙推進研究会)


  前回までは禁煙指導を始めるに当たっての医師ならび院内での取り組みと工夫について述べてきた.

 いよいよ保険診療による禁煙治療を開始するわけであるが,ニコチン依存症管理料という診療報酬の算定をするに当たっては,日本循環器学会,日本肺癌学会ならび日本癌学会による「禁煙治療のための標準手順書」1)に則って実施される必要がある.それと同時にすべての医療機関で算定できるわけでなく,施設基準を満たしたうえで地方社会保険事務局へ届け出を行わなければならない.これらに従わない診療は従来の自由診療による禁煙治療となる.


■まず「禁煙治療のための標準手順書 第2版」を手に入れる

 この手順書はhttp://www.j-circ.or.jp/kinen/からダウンロードできる.2006年3月に作成された第1版は2007年1月に改訂された.保険診療による禁煙治療が開始された後,ニコチンパッチの薬価収載などがあり,施設要件や算定要件などに沿った変更がなされた.したがって,現在の保険による禁煙治療は第2版に則って行われるのだが,ほとんど第1版と変わらないので従来の禁煙治療を大きく変える必要はない.PDFファイル(A4判)で44枚というかなりのマニュアルであるが,要点を押さえながら各自の禁煙治療スタイルを導入すれば良い.その要点と私の行っている禁煙治療の内容について複数号にまたがって述べていきたい.

■読む前にニコチン依存症管理料算定施設として
  届ける書類作成を早急に!

  手順書をダウンロードして印刷するまでにはかなりの時間を要する.その間に施設が基準を満たすかどうか再確認すると同時に届出書を記載して早急に地方の社会保険事務所に届けなければ,ニコチン依存症管理料は算定できない2).施設基準としては表1に記載してある基準を満たすかどうか,確認してもらいたい.

表1 ニコチン依存症管理料に関する施設基準
(1) 禁煙治療を行っている旨を保険医療機関内の見やすい場所に掲示すること.
(2) 禁煙治療の経験を有する医師が1名以上勤務していること.
(3) 禁煙治療に係る専任の看護師または准看護師を1名以上配置していること.
(4) 禁煙治療を行うための呼気一酸化炭素濃度測定器を備えていること.
(5) 保険医療機関の敷地内が禁煙であること.なお,保険医療機関が構造物の一部分を用いて開設されている場合は,当該保険医療機関の保有又は借用している部分が禁煙であること.
(6) ニコチン依存症管理料を算定した患者のうち,喫煙を止めたものの割合等を,別添2の様式8の2を用いて,社会保険事務局長に報告していること.

 (1) まだ準備していないなら,早急に作成する.既成のものもあるが,各医療機関独自の手作りのポスターなどは医療機関の温かみがあって効果的である.案外このポスターを見て自主的に禁煙を希望する患者が多い(図1).

 (2) 医師は常勤でなくても非常勤でも良い.禁煙治療の経験とは特別な資格は必要としないが,すでに述べた日常診療での治療経験などから判断すれば良い.私の地元,京都では治療経験の添付資料提出義務はなかったが,都道府県で異なるとのことなので社会保険事務局に問い合わせる必要がある3).禁煙治療の経験を証明する資料の提供が必須であった場合には何をもって証明するのか困る.今後は各都道府県医師会などが主催の禁煙指導者講習会での出席義務などで対応すべきと考える.

 (3) 「専任」の看護職員については,禁煙治療のみしか業務を行わない「専従」とは異なり,他の業務も行いながら窓口として禁煙の相談が受けられる看護職員と理解すれば良い.ただ,複数の施設申請をしている医療機関は他の申請条件において「専従」とした看護職員を禁煙治療の「専任」看護職員に同時に記載することはできないので注意する.この項目での問題点は看護職員をおいていない診療所が決して少なくないことである.看護職員がいないことで禁煙治療ができなくなった医療機関にとっては大きな問題である.禁煙としてのチーム作りは重要あるが,必須条件にする必要はないと考える.

 (4) 呼気CO濃度測定器の設置が義務づけられている.これはあくまでも医療機器として認可を受けているものでなくてはならない.日本で手に入る機種は現在3種類でマイクロスモーカーライザー(原田産業),マイクロCOモニター(フクダ電子,セティ株式会社)とマイクロCOチェック(セティ株式会社)である.各機種とも使用方法の他,価格やメンテナンスなどの費用も異なる4)「洲本市禁煙専門外来まとめ」のホームページ5)で詳しく報告されているので,機種選択の参考にすれば良い.ちなみに私が禁煙外来を始めた当初はマイクロスモーカーライザーしかなかったので,現在もこれを使用している.ただし,これらの器具は決して安価なものではなく,一般の診療所では導入しにくい.むしろ価格的に導入がしやすい尿中ニコチン代謝物測定器なども今後は選択肢として加えるべきと考える.

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)日本循環器学会,日本肺癌学会,日本癌学会:禁煙治療のための標準手順書第2版,2007(http://www.j-circ.or.jp/kinen/ よりダウンロード)
2)厚生労働省保険局医療課長通知:平成18年3月6日 保医発第0306003号(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/03/dl/tp0314-1b03.pdfよりダウンロード)
3)田中善紹:診療報酬体系.治療 88:2465-2474,2006
4)栗岡成人:必要な機器・物品,禁煙学,南山堂,pp74-78,2007
5)洲本市禁煙専門外来まとめ(http://www1.sumoto.gr.jp/shinryou/kituen/kiki.htm よりダウンロード)


安田雄司
1981年滋賀医科大学医学部卒業.滋賀医科大学医学部附属病院研修医,同第2外科助手,ドイツエッセン・ルアーランドクリニック助手,京都桂病院呼吸器センター部長を経て,1998年京都市南区やすだ医院院長.現,医療法人啓生会理事長.NPO法人京都禁煙推進研究会理事.専門領域は外科,特に呼吸器外科・気管支鏡検査や細胞診を中心とした呼吸器診断.