2
HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻9号(2010年9月号) > 連載●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル
●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第12回 テーマ

救急外来でこそ求められるコミュニケーションスキル

関 義元(茨城県立中央病院総合診療科)


【キーワード】
●救急外来
●コミュニケーション
●解釈モデル

事例:治療拒否……

胸痛を主訴に搬送されてきた中年男性.心電図にて急性冠症候群が強く疑われた.

医師「急性心筋梗塞ですね.心臓にいく血管が詰まっていますので,すぐにカテーテル検査をします.必要があれば風船治療をしますよ.数千人に1人は検査のために命を落とすこともありますが,命を助けるためですからね,頑張ってやりましょう.よろしいですか?」
患者「検査は受けません.もう帰ります!」
医師「本当ですか?治療を受けないと,病院から出たところで心臓が止まってしまうかもしれませんよ!」
患者「そんな脅しのようなこと言われても,俺は今,入院なんかしている場合じゃないんだ!」
医師「自分の命より大事なものなんてあるんですか?」
患者「もういい!帰る!(と言って点滴を自己抜去してしまう……)」

■救急外来ですれ違う医師と患者の思い

 救急外来では,救える命を救うことが最も優先順位が高いと思います.しかし,医師(+コメディカル)と患者の思いは,必ずしも一致しません(表1).そのことが原因で,後悔の残る結末になってしまうこともあります.

表1 救急外来での医師と患者の思い
医師の思い・行動 患者の思い・行動
●迅速に診断,治療したい.
●救急外来は自ら望んでいる場所ではない(こともある).
●最低限の情報のみを得たい.
●閉じた質問(はい,いいえ)↑
●開かれた質問↓
●説明↓(専門用語↑,不十分な内容)
●苦痛を緩和してほしい.
●命を助けてほしい.
●自分の思いを聞いてほしい.
●検査や治療の必要性が理解できない(きわめて非日常的な環境).
●人間としての尊厳が保たれるように配慮してほしい.
●十分な説明をしてほしい.
●明らかに最善と思われる治療法を,コミュニケーションの問題で選択できないこともある.

医師は何よりも「救命優先!」

 医師側からすれば,救急外来は,ほかの場所よりストレスを感じて診療をする場所です.すなわち,生命を脅かす病態に対して緊急処置をしなければならないうえに,一見軽症そうに見えるなかにも適切に対処しなければ重症化してしまう患者さんも多く,訴訟となるリスクが高い場所ともいえます.大学病院などの大病院であっても専門領域以外の患者さんを診ることも多く,自信がなくとも月数回は我慢して救急当番をしなければならないという先生方も多いことと思います.そうしたストレスのなかでは,そこへ行くだけで怒りっぽくなったり,「これは自分のやりたいことではない」と前向きに診療に向かえなくなることもあるでしょう(もちろん,逆に,どんどん重症患者を受けて,たくさんの患者さんを診たい,というアドレナリン全開の医師も多いことと思いますが……).

 いずれにせよ,救急外来での医師の関心は,まず病態や疾患の把握に向けられ,しかもそれらをより迅速に行うことに向けられます.コミュニケーションスキルに関して言えば,「はい」か「いいえ」で答えられる閉じた質問が多用され,患者が自分の思いを話す機会は少なくなる傾向があります.率直に言えば,救急外来にて医師がコミュニケーションスキルを発揮すると,話を聞く時間が長くなり,かえって患者にとってマイナスになると考える医師も多いのではないでしょうか.「医学生がやっているような,1人に10分以上もかけるような面接のトレーニングなんて,そのまま救急外来でやられたら,病院の機能がマヒしてしまうよ!」という現場の声もあるでしょう.

(つづきは本誌をご覧ください)