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●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第7回 テーマ

家族に付き添われた患者とのコミュニケーション:
相手は患者か家族か

木村琢磨(国立病院機構東埼玉病院総合診療科)


【キーワード】
●付き添い者
●三者関係
●患者中心

事例紹介:娘と来院した高齢男性

 88歳の男性.これまで医療機関にかかったことはないが,最近食が細くなり,心配した娘に付き添われて外来を受診した.

医師 「こんにちは,今日はどうなさいましたか?」
患者 「自分では心配していないんですが,娘がどうしてもと言うもんですから参りました」
医師 「どういうことでしょう?」
患者 「元々,食は細いほうなんですが,そうそう,いつだっけ,この前は吐き気があったよな?」(娘にゆっくり話しかけている)

 患者はしっかりしているようだが,とてもゆっくりと話し,話の要領を得ない.カルテはどんどん積まれていく.手際よく診療しなくては…….
  そんな医師の気持ちを悟ってかはわからないが,娘が話し始めた.

 「すいません.父がのろのろしていまして.実は……」

 娘は,とても手際よく症状の経過を教えてくれた.

医師 「はーなるほど」「そうですか」

 医師は,本人のほうを時々向いてはいたものの,いつのまにか,本人とほとんど話をせず,娘とばかりやり取りしたまま診療は終了となった.果たして,これでよかったのであろうか…….

■医師,患者,付き添い者との三者関係のコミュニケーションとは

 外来を受診する患者に家族などが付き添って来た場合には,患者と医師の二者関係のコミュニケーションから,付き添い者を含めた三者関係のコミュニケーションとなります.一般に三者関係のコミュニケーションは二者関係のコミュニケーションに比べて複雑で,より高度なスキルが必要とされています1~3).しかし,これまで三者関係のコミュニケーションについての系統的な教育・研修は少なかったため,そのコミュニケーション法は臨床現場で自ら習得しなければならないのが現状です.わが国においては高齢者がますます増加しており2),患者が,親・配偶者・子ども・親戚などの付き添い者と外来を受診する機会は,今後増えていくと考えられます.

 本稿では,外来患者に家族などが付き添って来た場合の,三者関係のコミュニケーションについて考えます.

■付き添い者による外来診療へのプラス効果

 付き添い者の存在は,外来診療にさまざまなプラス効果をもたらします(表1)2~4)

 付き添い者による診療への代表的な効果に,情報収集の充実があります2).例えば,患者が小児,認知症,失語症,難聴,話の要領を得ない高齢者などの場合に,医師がその家族などから話を聞く場面です.ある報告で医師は,付き添い者の存在により病歴がより明白になったと感じていました3)

 また,付き添い者の存在は,患者にとってもプラスの効果があります.付き添い者が,医師の説明をメモして患者に渡すことや,診療後に医師の指導内容を患者へ再指導することなどは,患者の理解を助けることに寄与します4).これらは,付き添い者が診療中に発言せず,臨席のみの場合にも期待できます.

 次に,付き添い者は,患者の医師への質問や要望を促す役割も担っています3).わが国のある報告では,付き添い者は患者のコミュニケーションを促したり,支持したりする発話を診療全体の8%程度していました5).つまり,付き添い者は,医師が本来行うべき役割を補助しているといえます5)

 付き添い者の振る舞いは,患者の健康状態や付き添い者自身の考え方により異なると考えられます.例えば,患者の認知機能がしっかりしていれば,付き添い者はただ臨席するだけでほとんど発言しないこともあり得るでしょう.その一方で,患者自身のコミュニケーション能力に問題がある場合などには,付き添い者は代弁者としての役割を果たすために多くを発言するかもしれません.

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)McDaniel SH, et al:家族志向のプライマリ・ケア.松下 明(監訳):個人の患者に対する家族志向のアプローチ,pp 40-50, シュプリンガー・フェアラーク東京,東京,2006
2)Brown JB, et al:Roles and influence of people who accompany patients on visits to the doctor. Can Fam Physician 44:1644-1650, 1998
3)Schilling LM, et al:The third person in the room;Frequency, role, and influence of companions during primary care medical encounters. J Fam Pract 51:685-690, 2002
4)Wolff JL, Roter DL:Hidden in plain sight;Medical visit companions as a resource for vulnerable older adults. Arch Intern Med 168:1409-1415,2008
5)Ishikawa H, et al:Physician-elderly patient-companion communication and roles of companions in Japanese geriatric encounters. Soc Sci Med 60:2307-2320,2005
6)Ishikawa H, et al:Patient contribution to the medical dialogue and perceived patient-centeredness;An observational study in Japanese geriatric consultations. J Gen Intern Med 20:906-910, 2005
7)Clayman ML, et al:Autonomy-related behaviors of patient companions and their effect on decision-making activity in geriatric primary care visits. Soc Sci Med 60:1583-1591, 2005
8)Ishikawa H, et al:Patients’ perceptions of visit companions’ helpfulness during Japanese geriatric medical visits. Patient Educ Couns 61:80-86, 2006
9)大坊郁夫:コミュニケーション・スキルの重要性.日本労働研究雑誌546:13-22, 2006