第3回 テーマ
傾聴は人のためならず:スムーズな診療のために
菅野圭一(渋川市国民健康保険赤城北診療所)
【キーワード】
●傾聴
●うなずき
●上手な沈黙
事例紹介:忙しい時に突然来院した話の長い患者さん
今日は午後から講演会に出かける予定があり,午前中の外来を早めに終了させなければならない.運よく初診や救急の患者さんも少なく,順調に外来は進行していった.11時30分には,患者さんもあと3人しか残っておらず,そろそろ終わりが見えてきた.
ところがそんな時,いつも訴えが多く,話が長くなりやすいAさんが,予約外で「明日飲む薬がない」と慌てて外来に駆け込んできた.いつもなら諦めてじっくり話を聞くところだが,そうすると講演会に間に合わないかもしれない.そんなふうに思ったら焦ってしまい,つい話が途切れたところで患者さんの話を遮って,「お話からすると,いつもとあまり変わらないようだから,同じ薬を出しておきますね」と切り出してしまった.すると,「そう言えば,今の薬はずっと飲み続けても大丈夫かしら?」「最近,指のしびれも心配だし……」と,いつにも増していろいろな相談事が出てきてしまった.
どうにか講演会にはぎりぎり間に合ったが…… |
「こんな場面はしょっちゅう経験している」といった方も多いかもしれません.「忙しい時ほど面倒なことが重なる」といった法則があるのかないのかわかりませんが(実際にはこんな事態の印象が強いため,数多く重なるように錯覚しているのでしょうね),困ってしまうことだけは確かです.
こんな時は,どのように対応すればよいのでしょうか.
■忙しい時ほどコミュニケーションスキルが重要
自分のペースが保てるほど余裕がある状態なら,だれでもいつも通りの行動ができます.しかし,忙しいと気ばかり焦って,いつもの行動がとれなくなってしまう場合が多いと思います.この連載の第1回に紹介されたケースでも,「外来患者が増えてきた中で,コミュニケーションスキルを十分に使いこなす余裕を失っていた」「患者数をこなす態度が出ていた」という例を挙げ,「初心に返る」ことの重要性を強調していました1).言い換えれば特別な状況ほど自分を振り返り,コミュニケーションスキルを意識して使うことが大切ですね.
さて具体的に,忙しい時に意識して使用すると効果的なコミュニケーションスキルはどのようなものがあり,どのようなことに注意して使えばよいのでしょう.
■効果的な非言語的コミュニケーションスキル
スキルの使い方を誤ると逆効果
診察の前半である「共感的コミュニケーション」~「傾聴・情報収集」の段階において,うなずきなどの促しは,アイコンタクトや沈黙とともに,簡単でありながら「あなたのお話をじっくりと聴いていますよ」という態度を患者さんに伝える,最も重要なスキルの一つです(表1)2).
表1 医療面接における7つの段階と関連する重要なスキル |
医療面接の段階 |
重要なスキル |
I.オープニング |
●あいさつ,自己紹介,アイスブレイク
●相手の氏名確認
●開かれた質問 |
II. 共感的コミュニケーション |
● 相手のペースに合った促し:うなずき,あいづち
●オウム返し
●まとめ・明確化
● I-message
●上手な沈黙
●相手の会話を遮らない |
III.傾聴・情報収集 |
●焦点化
●解釈モデル
● 相手のペースに合った促し:うなずき,あいづち
●情動反応の観察 |
IV. 説明・真実告知・教育 |
●病名・診断名を配慮しながら説明
●専門用語を乱用しない
●相手の理解のテンポに合わせる
●相手が質問しやすいように配慮
● 相手が会話の主導権をとる機会を
与える |
V.マネジメント |
●選択肢提示と自己決定への援助
●社会的支援ネットワークの活用 |
VI. 診断に必要な情報の授受 |
● 症状の7特徴(発症時間・持続時間と経過・部位・性状・強度と程度・誘因と修飾因子・随伴症状)や身体徴候を収集 |
VII.クロージング |
●ドアノブ・クエスチョン
●今後の予定提示とコンタクトの保証 |
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[松村真司・箕輪良行(編):コミュニケーションスキルトレーニング――患者満足度の向上と効果的な診療のために,医学書院,2007を基に作成] |
(つづきは本誌をご覧ください)
文献
1)和座一弘:患者満足度と医師のコミュニケーションスキル.medicina 46:1716-1720, 2009
2)松村真司・箕輪良行(編):コミュニケーションスキルトレーニング――患者満足度の向上と効果的な診療のために,医学書院,2007
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