Editorial

医療介入のルーピング効果に気をつけよう
徳田安春
臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄

テクノロジーの発達により、さまざまな病気や病態に対して、新開発の手術や手技による治療介入が可能になった。新しい術式、カテーテル、インターベンション、内視鏡、デバイス、電子機器などだ。これらの新規介入の医療価値を高めるためには、原則として本人の同意を得たうえでの、医学的に適応のある患者さんに対して、エビデンスに基づく介入を“適切なタイミングで”行うことが大切である。

しかし、新規の医療介入に「エビデンスはある」、とされたものでも、時を経て否定されていく可能性はある。たとえば、統合失調症患者さんに対するロボトミー手術は、不十分なエビデンスで行われ、患者さんに害等を与えた介入であったことがわかり、後にその手術を広めた医師は、世界の人々から非難されることになった。歴史に負の名を残したのだ。

これは“ルーピング効果(looping effects)”と呼ばれている。新規の医療介入の実施者だけでなく、それを推奨した医師たちにも、後になって責任を問われることもあるのだ。

最近注目された論文で、価値医療による合併症率は、臨床的に大きかったことが判明した(表1)。合併症のうち最も多かったのは、院内感染であった。

医療による介入に、患者さんの生活の質や生存を改善する効果を期待するのは当然だ。しかし、エビデンスを超える適応の拡大を行うと、過剰治療による副作用のリスクが高まり、医療価値を低下させる。

本特集の第1弾は【循環器・消化器・神経疾患】の手術・手技の適応とタイミングについてである。臨床腫瘍学での手術・手技についてはよく取り上げられるので、今回は悪性腫瘍以外の疾患に焦点を当てている。各分野のエキスパートに、ガイドラインのコピーではなく、現場の総合診療医のリアルな悩みに答えるスタイルで、最新エビデンスに基づいたわかりやすい解説をお願いした。

本特集が、患者さんの臨床アウトカムを改善させ、ルーピング効果で非難される医療者を増やさないことに役立つことになれば、本特集企画者として喜びである。

表1低価値医療における合併症率(オーストラリアの225病院を3年間調査)
膝の変形性骨関節症や半月板断裂に対する関節鏡:0.5%
無症状で破裂の危険性が低い腹部大動脈瘤に対する血管内手術:15.0%
無症状の内頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜剝離術:7.7%
動脈硬化性狭窄に対する腎動脈形成術:8.5%
単純性腰痛症に対する脊椎固定術:7.1%
文献2の結果の一部を整理して表にしたもの
文献
1)Aronowitz R, et al : Contingent knowledge and looping effects─A 66-year-old man with PSA−detected prostate cancer and regrets. N Engl J Med 381(12) : 1093-1096, 2019. PMID 31532956
2)Badgery-Parker T, et al : Measuring Hospital-Acquired Complications Associated With Low-Value Care. JAMA Intern Med 179(4) : 499−505, 2019. PMID 30801628