Editorial

会津から新たな気持ちで
山中克郎
福島県立医科大学会津医療センター 総合内科

 今春から、会津若松(福島県)で勤務を始めた。福島県は東西に長い。会津は福島県の西3分の1を占めるだけであるが、その面積は千葉県に匹敵する。東には、磐梯山と猪苗代湖がある。南西には、尾瀬国立公園が広がっている。「夏が来れば思い出す はるかな尾瀬 遠い空♪」と唱歌にも歌われた、あの尾瀬である。

 会津の悲しい歴史は150年前にさかのぼる。戊辰戦争により、会津の町は新政府軍によって破壊され、女性や子どもを含め約3,000人が犠牲となった。若松城を守るために戦った10代の若者たちが自害した、白虎隊の悲惨な物語を知る人も多いであろう。平和な時代に暮らしていると、日本の平和は永遠に続いているように思われる。たった150年前、日本は内戦状態だったのである。戦争は絶対にしてはいけない。

 会津の米はおいしい。こづゆ(海産物の乾物を用いた汁物)、ニシンの山椒漬、馬肉など、個性的な郷土料理がある。馬肉は辛子味噌だれをつけて食べる。赤身が多く、これまたうまい。会津盆地には周囲の山から豊富な伏流水が流れ込む。米と水がおいしいところには、美味い酒ができる。福島県は7年連続で、全国新酒鑑評会で最も多くの金賞を受賞している。会津には、芳醇で優しい味わいの酒が多い。

 福島県立医科大学総合内科の濱口杉大先生(p.1053)、白河総合診療アカデミーの東光久先生らのチームと協力し、福島県で「総合診療」を盛り上げようとしている。2011年3月11日に起こった「東日本大震災」による福島第一原子力発電所事故で、福島県は未曾有の被害を受けた。数年後に定年を迎える身だが、少しでも福島県の医療に貢献できれば幸せである。

 今月の特集のテーマは、『「外来診療」基本のき』である。外来診療は、プライマリ・ケア医にとって、診療の中心となる活躍の場だ。さらに、若手医師の教育プログラムでも、外来診療は近年重要視されるようになってきた。

 外来診療でよく遭遇する基本的な疾患に対する診断と治療を、新進気鋭の総合診療医に執筆してもらった。本特集は、外来診療の“達人”を目指すものではない。患者さんに危害を加えないよう、“60点の及第点”を目指す特集である。自戒の念を込めて言うが、長年診療を続けていると、関心のある領域以外の知識が、次第におろそかになっていく。私は、それを「ヤブ化」と呼んでいる。そんな不得意分野の知識を補完することが、本特集のねらいである。

心理学者Alfred Adler(1870-1937)は、こう語っている。

「人生は他人との競争ではない。健全な劣等感は、他者との比較のなかで生まれるものではなく、理想の自分との比較から生まれる」