Editorial

カリスマ医師との遭遇
徳田 安春
臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄

 子どもの頃、テレビや映画、漫画に登場するヒーローやヒロインに憧れた経験は、ほとんどの人が持っている。その後私たちは成長するにつれて、架空の人物ではなく、実在人物の伝記や書物に接したり、すばらしい人物(カリスマ)に実際に遭遇することで、その人に憧れることになる。カリスマとの出会いは、私たちの人生に大きな影響を及ぼす。私たちの人生の目的、生き方、人間関係のあり方までをも決定する、と言っても過言ではない。

 そう捉えると、医師である私たちにとって、歴史にその名を残したカリスマ医師と遭遇する機会を持つことは、とても重要であるはずだ。すなわち、カリスマ医師たちは、私たち医師の永遠のロールモデルとなる。偉大な伝説のカリスマ医師、また今も多くの人々に愛され活躍されるシニア的存在のカリスマ医師。

 本特集内で、私はロールモデルの1人である故・日野原重明先生について書いた(p.1344)。

 若き日の日野原先生は、大学卒業後、聖路加国際病院の医師となり、その図書室で生涯のロールモデルとなるウィリアム・オスラー先生(p.1347)と出会った。カリスマ、すなわちロールモデルとの出会いは、書籍でのことが多いのである。そこでオスラー先生の多くの著書を読み、また「医師にとって沈着な姿勢、これに勝る資質はありえない」という「平静の心」の大切さを学んだ。

 そして日野原先生は、1970年よど号航空機のハイジャック事件の人質となった時に、まさにオスラー先生から学んだ「平静の心」を実践したのであった。ハイジャックに遭遇した乗客がパニックに陥ったなかで、自分自身の心拍数をカウントし、これが「60台」であることを確認した日野原先生はこの時、自分自身の心が「平静」であったことを確認していたという。日野原先生にとっては、ハイジャックされた航空機のなかで、人質となっている命の究極の状況においても、「平静の心」でいられたことが最も重要であったのだ。そのあとで先生は、乗客の人々に、医師の立場から「安心するように」との優しい呼びかけの言葉を投げかけた。お陰でよど号の乗客は皆、「平静な心」を取り戻すことができたという。

 究極の状況下で、カリスマ医師・オスラー先生から学んだ人生のクリニカルパールを、大勢の乗客を相手に即座に応用された日野原先生は、私たちにカリスマ医師との向き合い方を教えてくれていると思う。

 本特集では、近年の臨床医学を代表する東西のカリスマ医師たちの生き様と、クリニカル・パールを紹介する。各カリスマ医師の教えを最も熟知した医師・看護師による振り返りに基づいて、最も印象的かつ読者と共有したいパールについて、ご執筆をお願いした。著者の先生方には、カリスマ医師との「思い出の写真」の掲載もお願いした。貴重な写真と原稿を提供された先生方には、心より御礼を申し上げる。

 本特集を読んだ読者は、医師人生のロールモデルと出会い、心に響く素晴らしい言葉の数々を心の栄養とし、患者さんを幸福に導く素晴らしい医師になることを決意するだろう。