Editorial

家庭医的外来ケース・カンファレンスの方法
藤沼康樹
医療福祉生協連 家庭医療学開発センター

 さまざまなタイプの総合診療系の教育イベントに呼ばれる機会があります。かつては、講演あるいはレクチャーといったやり方を期待されていました。最近は、むしろ具体的なケースを提示してもらって、議論の促しとコメントをつける、というようなやり方が好きです。それは、準備をほとんどせずに済むということと、当日ケースを提示してくれる医師をはじめとした医療者の語りのニュアンスや雰囲気から、本当のニーズがわかるということが多く、アドリブ的にそのニーズに合わせたコメントをするのが実はとても大事だな、という思いがあるからです。

 それでも僕なりの一定のやり方があって、今回はそれを紹介します。
① 年齢や性別、来院時間、入室時の雰囲気、予診票から、「なぜ来院したのか」を推理します。限られた情報から、いかに多様かつ妥当性のある仮説設定ができるかが重要だと思います。
② 患者さんの服装やしゃべり方などから、「どんな人柄か」を類推します。ある種の直感的なプロファイリングのようなものです。これは、実は熟達した家庭医の能力の1つです。
③ 生じている問題は、大枠で「どのような類の構造の問題=概念か」を考えます。これは、一般的診断推論ではなく「multimorbidity(多併存疾患)の問題である」とか、あるいは「help-seeking behavior(受療行動)の問題である」といった、ある種の演繹的な推論を行います。それができるためには、『Annals of Family Medicine』や『Journal of General Internal Medicine』など、海外の総合診療系の研究に親しむことで、概念を増やしておく必要があるのですが。
④ 「家族」に関する限られた情報から、どのような構造的特徴があるかを類推します。世代論、家族ライフサイクル論、社会情勢、家族力動などの知識を総動員して、ありうる問題の仮説設定を行います。特に「どんな生き方をしてきた人か」に関する仮説設定が大事です。
⑤ 問題解決あるいは問題の安定化に向けて、多次元的アプローチ、すなわち「complex intervention」1)の視点で、プランを複数立ててみます。ここでは、特に「健康の社会的決定因子」への思考を促します。
⑥ 診察している当事者の内部に起きた「感情」を言語化することを促します。これは、医療者自身の感情が診療プロセスに影響を与えることが多いからです。
⑦ 患者さんの「自己(主体)」へのアプローチ(p.1018)を、意識的にせよ無意識的にせよ、どのようにやっているかを議論します。

 こうしたホンモノのgeneralismに基づくケース・カンファレンスを、少しずつ広げていきたいと思っています。

文献
 1)  Campbell NC, et al:Designing and evaluating complex interventions to improve health care. BMJ 334(7591) : 455−459, 2007.[PMID]17332585