Editorial

“昨日の自分”を超えゆくための
Snap Diagnosis問題集

山中克郎
諏訪中央病院 総合内科

 医師国家試験に合格し、希望に胸を膨らませながら、この4月から診療を始めた1年目初期研修医がたくさんいるだろう。目の前の患者さんに全力を尽くし、真摯な態度で診療にあたってほしい。

 医師は、診療の中心ではない。患者さんが中心にいて、医師を含む多くの医療従事者がそのまわりを取り囲んでいる。コメディカルの協力があって、初めて素晴らしい医療が提供できる。

 「挨拶をする」「いつも感謝の気持ちをもつ」「時間に正確である」「ユーモアがある」「失敗にもへこたれない」という、定量化の難しいソフトスキルが仕事には大切である。論語に「徳は孤ならず、必ず隣あり」とある。誠実に仕事を行っていれば、必ず味方してくれる人が現れる。

 同期と比較して「自分は臨床医としての能力がない」と悲観している研修医がよくいる。しかし、他人との比較は全く意味がない。“昨日の自分”と比べてどれくらい成長しているか、ということこそが大切なのである。

 専門医を1年でも早く取得しようという風潮があるが、少しくらい道草をしても十分に取り返しがつく。価値観が多様となり、高いコミュニケーション能力が要求される現代では、将来の専門以外のことも一生懸命やったほうが、アピール性の高い医師となるだろう。

 診断にはいくつかのやり方があるが、Snap Diagnosisと呼ばれる「一発診断」は大変魅力的である。患者の語る症状、身体所見や検査所見から、余分な検査をすることなく、迅速に診断へたどりつける点が最大の長所だ。もちろん、経験の浅さや勘違いから診断を誤る危険性はある。しかしながら、医師に限らず多くのプロフェッショナルは、大事な判断を直感で瞬時に決定することがよくある。本特集は、このSnap Diagnosisの技術を磨くことを目的とした。

 懸賞論文「GM Clinical Pictures」(p.623)には、全国からたくさんの応募があった。この場を借りて、心から御礼申し上げたい。「大賞」は、織田錬太郎先生(東京ベイ・浦安市川医療センター)の頭上に輝いた(p.633)。患者数が増加しているため、最近よく話題になる疾患だ。私たちは、この病気をたくさん見逃している可能性がある。「優秀賞」は、新津敬之先生(湘南鎌倉総合病院)が獲得した(p.641)。有名な疾患であるが、実際に診断した医師は少ないだろう。しかし、松浦宏樹先生(倉敷中央病院)がコラムで述べているように(p.683)、典型的な身体所見を知っていれば、突然目の前に患者が現れた時に診断できる可能性が高まる。

 本特集は、内科医が日常臨床において頻回に遭遇する疾患や話題になっている疾患の集大成となっている。大変な企画をしてしまった。本誌で勉強した若手医師の臨床能力が飛躍的にアップし、ベテラン医師にとって脅威となるに違いない。