Editorial
The しびれ・トリビア!

上田 剛士
洛和会丸太町病院 救急・総合診療科

 突然ですが,「しびれ」とは何でしょうか?

 『広辞苑(第六版)』(岩波書店,2008)ではしびれることを以下のように説明しています.

(1)からだの一部または全体の感覚を失って,運動の自由を失う.
(2)激しく興奮し,うっとりする.
(3)電気などに触れて体がぴりぴりとふるえるように感ずる.

 (1)は「長く座っていたために足がしびれた」のように使われ,待ちくたびれることを意味する「しびれを切らす」にもつながったものと思われます.この「しびれ」は感覚鈍麻や感覚脱失に相当しますが,医学用語としては「しびれ」が脱力を意図して用いられることは少ないように思います.

 一方,(3)の「しびれ」は医学用語では感覚過敏に相当しますが,いずれにせよ,もともと「しびれ」は良い意味では用いられず,医学的にも患者さんのQOL(quality of life)を下げ,われわれの頭を悩ませる厄介なものです.

 その後,1958年に三橋美智也(1930~1996年,演歌歌手)の節回しで,酔いしれる時に「シビれる」と言ったことから,『広辞苑』で記載されている(2)のように,「しびれ」は良い意味でも広く使用されるようになりました.当時は“素晴らしさに酔いしれて動けなくなる状態”を例えて用いられましたが,最近では「しびれる試合」のように,強い刺激を受けて非常に興奮する場合にも用いられます.つまり,あまりの素晴らしさに感動して(1)動けなくなったり,(3)体がぴりぴりとふるえるように感じる場合に,「シビれる」と表現します.

 そしてさらに,最近では焼肉屋でも「シビレ」という用語を目にするようになりました.「シビレ」とは,胸腺や膵臓を意味する料理用語だそうです.「シビレ」は柔らかく滑らかな食感と繊細な味わいがあることから,英語では「sweetbread」(甘い肉の意)と呼ばれ,これが訛って「シビレ」となったと考えられています.

 さて,前回の特集(26巻5号)「しびれるんです!」では,しびれの基本的な内容について解説しました.そして続編となる本特集では,前回伝えきれなかった「しびれ」に関するピットフォールや軽視されがちな疾患を取り上げます.言わば,前回のアドバンス編となっており,今回も日々「しびれ」を診療している新進気鋭の若手臨床医に,現場で即役立つエビデンスを取り上げて解説していただきました.

 われわれの頭を悩ます「しびれ」ですが,「しびれ」を深く理解することで,シビれるような甘い調理法を身につけ,願わくばその真髄を心ゆくまで堪能したいものです.