Editorial
「ケアバンドル・チェックリスト」で
感染症診療の質向上と耐性菌減少を!

徳田 安春
臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄

 本特集は,感染症関連のケアのために現場で即役に立つ代表的「ケアバンドル・チェックリスト」の紹介と,その実際の使い方を提供する.

 総合診療医は複雑な患者の感染症ケアも担当することが多い.高齢者,フレイル,サルコペニア,コモビディティ,免疫不全状態,臓器移植後,HIV感染などのケースである.このような患者には,発熱への適切な診断と迅速で適切な治療が必須であり,ケアバンドルをベースとするチェックリストによる予防,診断,治療等の介入が有効である.また,点滴,デバイスや人工呼吸器などの複雑な医療介入を受ける患者のケアでも,医療関連感染症の予防が重要な課題であり,その予防にも「ケアバンドル・チェックリスト」が有効である.

 さて,2016年G7伊勢志摩サミット主催国として,日本はさまざまな領域の国際問題についての解決に向けて行動するリーダーシップを発揮する役割を担い,ここで「医療」の主要議題の1つとして「薬剤耐性菌」対策が取り上げられた.もともと「薬剤耐性菌」対策についてはWHO(World Health Organization)からの呼びかけもあったが,日本政府もサミット開催に合わせて,今年4月5日に閣議決定でアクションプランを策定し,2020年までに達成すべき具体的な数値目標を示している(表11)

表1 アクションプランの成果指標 (2020年に目標達成)1)
1 肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下に低下させる.
2 黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下に低下させる.
3 大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下に低下させる.
4 緑膿菌のカルバペネム(イミペネム)耐性率を10%以下に低下させる.
5 大腸菌及び肺炎桿菌のカルバペネム耐性率0.2%以下を維持する.
6 人口千人あたりの1日抗菌薬使用量を,2013 年の水準の3分の2に減少させる.
7 経口セファロスポリン系薬,フルオロキノロン系薬,マクロライド系薬の人口千人あたりの1日使用量を,2013 年の水準から50%削減する.
8 人口千人あたりの1日静注抗菌薬使用量を,2013年の水準から20%削減する.

 耐性菌が世界的な問題となる背景に,抗菌薬の不適切使用や,院内感染対策の不備から,新たな耐性菌が拡散している現状がある2).これらのプランの目標数値はかなり野心的のようにも見えるが,実行できれば人々は多大な恩恵を得ることになり,達成するに値する成果目標であろう.これからはそのための方略についてさまざまな議論が出てくるであろうが,重要なのは国民全員の行動変容である.

一般の人々は風邪症状等で抗菌薬処方を希望しないこと.
抗菌薬を家畜に与えている畜産業者はそれをやめること.
 そして最も重要なのは,
病院や診療所での医療者が,抗菌薬適正使用と医療関連感染症予防に努めること.

 その行動変容のために,本特集の「感染症ケアバンドル・チェックリスト」が助けになればと思う.

文献
1)  国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議.薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン,2016. http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf
2)  [interview]具芳明氏に聞く:世界に広がる薬剤耐性菌,日本が取るべき行動とは—「アクションプラン」発表と抗菌薬適正使用への道筋.医学界新聞第3173号(2016年5月9日).