Editorial
 「咳を聴きとり,咳を止める」ことは,
総合診療医の腕の見せ所

藤田 次郎
琉球大学医学部附属病院長

 咳は日常診療の中で,頻度の高い主訴である.また外来患者の訴える主訴の中で最も多いものである.このため本特集のテーマである「咳を聴きとり,咳を止める」を学ぶことは,総合診療医にとって必須であり,同時に総合診療医の腕の見せ所でもある.

 器質的な呼吸器疾患のみならず,感染症,アレルギー疾患,鼻疾患,胃食道逆流など,さまざまな要因により咳が惹起される.もちろん患者さんの希望は咳を止めてほしいのであるから,咳の原因を明らかにすることは重要な課題である.咳を有する患者さんを診察する際には,咳の持続期間を考慮することが重要である.まず急性の咳は,3週間以内の咳と定義する.亜急性の咳は3週から8週間続く咳である.慢性の咳は8週間以上続く咳である.当然のことながら,長い期間咳が続けば続くほど,感染症の可能性は低くなる.

 本特集は,咳をさまざまな視点から捉え,その原因を突き止め,的確に診断し,適切な治療を選択することを可能にすることを目的としている.本特集の構成として,まず「咳嗽に関するガイドライン」(第2版)のエッセンスを紹介し,急性咳嗽,遷延性咳嗽,または慢性咳嗽の鑑別診断の基本方針に関して取り上げる.次いで咳の機序(特に咳の反射経路,咳受容体,カプサイシン受容体,TRPチャネル,および咳中枢)に関する理解を深める.同じく咳の機序として,線毛運動障害の視点からの咳を取り上げ,冬季ウイルス感染症,人工呼吸器関連肺炎を考慮しつつ,肺炎予防のための方策にも言及した.呼吸器感染症に伴う咳はきわめてありふれた疾患であり,臨床的にきわめて重要なものである.呼吸器感染症を原因とする咳を止めるためには,病原体に応じた治療法を選択する必要がある.このため病原体の同定が重要であり,呼吸器ウイルス,百日咳,または非定形病原体の診断が重要となる.

 総合診療医には,問診で咳の原因を絞り込むことが求められる.その際には特に随伴症状(呼吸器症状,または肺外症状)の有無に着目する.また身体所見を系統的にとることにより,さまざまな咳の原因を特定しうることも重要である.

 咳の鑑別診断と治療は,開業医であるか,大学病院の勤務医であるかで,そのアプローチは大きく異なる.本誌は総合診療医向けの雑誌であるので,開業医の視点から,急性咳嗽,および遷延性,または慢性咳嗽へのアプローチを取り上げた.また忙しい外来で,速やかに咳を止めるための実践的治療についての記載を含めた.この実践的治療は長年の臨床経験から得られたものである.さらに各論では,「発熱を伴う咳を見た際には?」,「むせを伴う咳を見た際には?」,「アレルギー性疾患が疑われる咳を見た際には?」,「後鼻漏を伴う咳を見た際には?」,「胸やけを伴う咳を見た際には?」,という項目を設定し,主訴からの咳へのアプローチを学べるように工夫した.幸い素晴らしい執筆陣に恵まれ,充実した特集を組むことができたと自負している.

 本特集が総合診療医の皆さまのお役に立つことを願っている.