Editorial
総合医のためのスポーツ医学

小林 裕幸
筑波大学附属病院水戸地域医療教育センター・水戸協同病院総合診療科

 国際的な医学誌The Lancetの2012年7月号1)では,身体活動の特集号が組まれ,身体活動不足が原因での死亡が,全体の9.4%と報告された.その影響の大きさは喫煙や肥満などのリスクに匹敵すると発表され,身体活動の低下が世界中に大流行していると警笛をならしている.日本でも,食事の欧米化に加え,車などの交通手段,産業構造の変化,スマホ・ゲーム機器などの普及により,日常での身体活動は小児から大人まで低下の影響を認めている.

 そんななか,2020年東京オリンピック開催のニュースは,地震や原発問題を抱える日本に,明るい希望をもたらしてくれた.団塊の世代がすべて75歳以上という2025年問題を後に控える超高齢化社会の日本は,これを機会に,身体活動を高め,ロコモを防いで健康寿命をのばす社会の動きを加速させる必要があると思われる.

 身体活動(physical activity)とは,日常生活における労働,家事,通勤・通学等の「生活活動」と,体力(スポーツに関連する体力と健康に関連する体力を含む)の維持・向上を目的とし計画的・継続的に実施される「運動」の二つに分けられる2).総合医には,この生活活動と運動を現場で安全かつ効果的に患者や地域に促すことが求められている.

 本特集は,総合医が,地域の現場で遭遇する運動やスポーツ医学のトピックに関し,そのベーシックスとして一冊にまとめたものである.プライマリ・ケア医の方々が,スポーツにまつわる問題に対処できるよう,スポーツ医学の第一線で活躍されている先生に具体的でわかりやすく解説いただいた.

 紙幅の制約から,整形外科的スポーツ傷害については,診断,治療,リハビリテーションについて,プライマリ・ケアで遭遇する重要な疾患に絞って取り上げ,またプライマリ・ケアで見逃しやすいスポーツ傷害や専門家への紹介のタイミングなどを解説いただいた.スポーツ医学で最低限知っておきたい知識については,運動前のメディカルチェック,スポーツ栄養学,スポーツメンタル,小児,女性の特性に合わせたケア,脳震盪,ドーピングなどの項目を用意して,例をあげながら内容を盛り込んだ.

 筆者が米国家庭医療レジデント時代にみた家庭医が実践しているスポーツ医学は,整形外科疾患を含め,あるゆる問題に取り組む総合診療そのものであり,スポーツを行う人たちを対象とした患者中心の医療の実践であった.時には,地域の高校生のフットボールチームの試合に帯同し,サポートする身近な存在でもあった.今後,日本でも,総合医のスポーツ医学の研修を充実させ,地域で運動やスポーツ活動の活性化を通して,コミュニティに貢献する総合医が育つことを期待したい.

文献
 1) Lancet 380(9838) : 219-305, 2012.
 2) 厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準2013」