Editorial
鑑別診断に続くカオスへの処方箋
先日,UCSFのローレンス・ティアニー先生が来日され,国立病院機構東京医療センターのMorning conferenceで再会した.1992年にティアニー先生がサバティカル(使途に制限がない職務を離れた長期休暇)期間に日野原重明先生の招きで来日し,奥様と娘さんと一緒に東京医療センターの宿舎に8か月間滞在された.その間お世話係をさせていただいたが,診断学の面白さを毎日体験する幸運を得た.今回のconferenceの症例は意識障害だったが,低血糖対策,ご自分の財布を出しながらのwallet biopsy(財布の中にある,運転免許証の昔の顔写真,診察券,社員証,レンタルショップの会員証などからの生活歴)の有用性を解説された後,くだんの鑑別診断分類リスト[Vascular(血管病変),Infection(感染症),Neoplasm(腫瘍),Toxic-Metabolic(中毒・代謝・内分泌),Autoimmune(自己免疫・アレルギー),Trauma-Degeneration(外傷・変性疾患),Congenital(先天性),Iatrogenic(医原性),Idiopathic(原因不明) ]を用い,病態生理に応じて鑑別診断していく手法は久しぶりだったが,20年前と変わりないキレだった.心雑音の口真似も出てきて,ティアニー先生はエンターテイナー顔負けの医学教育者だと再認識させられた.
私事だが,4階まで階段を昇ると息切れがするようになった.健康診断を受けても,特に心肺機能に異常があるわけではない.年齢のせいであろうが,「動悸,息切れに○○」と流れてくるTVの宣伝には自然に注意が向いてしまう.本特集は,初診患者の主訴の2%を占める動悸・息切れを対象に,見逃してはいけない病気の見つけ方と,器質的疾患が見つからなかった時の対処法を幅広く解説していただいた.
本特集には20代女性の肺塞栓症というヤバい病気(killer disease)の例示から始まって,3A+3P+3C+4Tの鑑別診断リスト,埋め込み型ループレコーダ(implantable loop recorder : ILR),左室駆出率が50%を超えている拡張不全による心不全,心房細動に対するカテーテルアブレーション,呼吸リハビリテーションなど動悸,息切れに関する最新の知識・技術を収載したが,その進歩は著しい.西洋医学的な考え方では診断が確定すれば,診断に伴って治療法は自動的に決まる.しかし,動悸,息切れが主訴の場合,器質的疾患が見つかりにくく,原因はわからないことも多い.器質的疾患がなさそうだとわかった時に,「病気はなさそうでした」と言っても,納得される方は少ない.そうした際には,精神科的なアプローチや漢方薬,もしくは患者さんが試みているかもしれないし,また試してもよい一般用医薬品薬,サプリメント,アロマテラピーなどの知識が役に立つ.
器質的疾患が見つからなかった時の対処法,「様子をみましょう」以外の対応法のヒントがここにある.