巻頭言
特集重症度,医療・看護必要度 見直しの方向性

高齢化の進展は,患者の病態像を複合化させる.医療と介護の複合化,急性期と急性期以後のケアニーズの複合化が,病床機能を問わず,いずれの病棟でも進行している.こうした患者のニーズの変化に対応して,看護サービスの経済的評価についても,構造や人員配置という外形的な基準のみから考えるのではなく,患者の状態像(看護必要度)の視点を加味して評価すべきであると考えられるようになった.このような視点から開発されたのが「重症度,医療・看護必要度」であった.

しかし,本特集で秋山氏が指摘するように,2006年度診療報酬改定において,患者の重症度や看護の必要度を加味しないままに「7対1入院基本料」が新設され,その後の大混乱を招く結果となった.今回の新型コロナウイルス感染症への対応で顕在化したように,急性期の場合7対1以上の人的配置基準を必要とする病棟が存在する.秋山氏が解説している「看護必要度の実情に応じた病棟間・勤務帯間の看護師の適正な傾斜配置の方法論」は,この問題を考えるためのヒントをくれるものである.

同氏の「治療(Cure)できない状況があっても,看護(Care)できない状況はない」という指摘も重要である.現場では,手術や投薬といった治療と,療養上の世話という看護が複線的に動いている.その配分が急性期から慢性期までの各病棟で異なる,というのが現実なのだろう.この認識は武久論文でも共有される.このような現状を踏まえて,秋山氏も武久氏もDiagnosis(診断群)とProcedure(A/C得点)のCombinationに,Nursing(B得点)の第3軸を加えた評価方法を提案している.

ここで課題となるのはB項目による評価である.宮井論文では回復期リハビリテーション病棟において用いられている「B項目から派生した日常生活機能評価」がFIMに置き換えられてきた経緯が,その妥当性とともに説明されている.評価の連続性という視点で考えたとき,回復期のみがFIMを用いるという状況は好ましくない.この問題をどのように整理するかが今後の課題である.

林田論文・松田論文では,入院に関わる評価体系に関する厚生労働科学研究の内容が紹介されている.「病棟機能に関する基本的評価」「医療内容の評価」「患者状態の評価」の3軸で考えるというのが,研究者の共通の認識になっている.この研究では,今後,急性期病棟だけでなく,回復期病棟,慢性期病棟,介護施設,在宅からもデータが収集されることが予定されている.武久論文で述べられているように,国内外の先行研究の成果を踏まえて,医療・看護・リハビリテーション・介護を共通のスケール群で評価しようという大きな試みが今行われているのである.本特集はその方向性を示すものである.

産業医科大学公衆衛生学教室教授松田 晋哉