巻頭言
特集病院総合医を活かす

超高齢化や人口減少が進む中,地域の医療ニーズが大きく変化している.多疾患罹患,多臓器障害を抱え,介護サービスや社会的支援を必要とする高齢患者が増え,地域包括ケアの視点からの医療サービスが求められている.病院においては“それぞれの診療領域における知識・経験を持った標準的な医療を提供できる”各科専門医の集合体だけでは対応できない状況に迫られている.そんな中,自らの役割を変化させ,病院全体のパフォーマンスを向上させる総合診療医/病院総合医による取り組みが各地で進められている.本特集では,そんな病院の取り組みを紹介しながら,今後の病院総合医の育成・活用に対して一つの指針が示されることを期待したい.

小泉論文では,これまでの医学の進歩と専門分化に伴い,いかに“総合診療”の流れが生まれてきたかが説かれ,それを踏まえ,わが国において現状の医療ニーズに立ち向かう自覚的な病院総合医の育成の必要性が示されている.

神野論文では,病院における多能工としての総合医のさらなる需要から,総合診療専門医と同時に多くの臓器別専門医からのシステマチックな総合医育成の必要性が解かれている.

黒木論文では,一般的な地域の小病院において,常勤医師がまさしく地域全体の医療ニーズに対面することで総合医としての自覚を持ち,さらには次世代の“総合診療医”を育成する指導医としての役割を担うことで自らも成長している逞しい事例が示されている.

石田論文では,ERと総合内科を担当する救急総合診療科を病院の中核として捉え,災害時などにリーダーとして実力を発揮できる人材として育成する,まさに病院総合医を活かす取り組みが示されている.

徳田論文では,米国でのホスピタリストの流れを踏まえ,わが国でも日本版のホスピタリスト養成が必須であると説き,臓器別専門医のコンバートによる充実を唱えている.

米田論文では,大学において総合診療医を育成するに当たって,総合診療を一つの専門性として捉えるのではなく,変化する時代に医療全体を維持し支える手法として捉え,当事者意識を持つことこそ,総合医に求められる姿であると説いている.

現在,新型コロナウイルス感染症はいまだ収束する様子もなく,それぞれの病院に対して極めて不安定で深刻な医療ニーズが突きつけられている.そんな中,各地で厳しい状況に立ち向かう病院総合医,救急・ICU医師の様子が報道される場面が数多くあり,本物のジェネラリストたちが活躍している姿に,日本の医療における一筋の光明を垣間見た気がした.後進の成長と活躍を期待したい.

台東区立台東病院管理者山田 隆司