巻頭言
特集本格化する病院のアウトカム評価

国民が医療に求める第一のものは医療の質である.2014年,OECDのレポートは日本の医療について,体系的な質評価の仕組みがないことを問題点として指摘した1).本特集の池田論文でもわが国の質評価の取り組みが諸外国に比較して大きく遅れていることを指摘しているが,わが国でも種々の病院団体で医療の質評価に関する試みが行われてきており,伏見論文で紹介されているように,それが厚生労働科学研究の枠組みで共通指標としてまとめられようとしている.ただし,池田論文で指摘されているように,死亡率などのアウトカム評価を行うためのリスク調整の仕組みを実装するための検討が必要である.

谷澤論文で詳細に説明されているが,平成30年度診療報酬改定により,入院基本料は看護配置基準10:1,15:1,20:1の3区分となった.さらに,看護配置基準10:1の病棟では重症度,医療・看護必要度,回復期リハビリテーション病棟ではFIM利得や在宅復帰率,地域包括ケア病棟でも在宅復帰率による段階的評価が導入され,当該病棟が期待されている機能をどれだけ行っているかというアウトカム評価的な仕組みが診療報酬に導入された.宮井論文ではFIM利得によるアウトカム評価の意義が評価される一方で,クリームスキミングおよびデータの信頼性の問題点が指摘されている.これはアウトカムを診療報酬に紐づける上で,重要な課題である.

傷病構造の変化,具体的には典型的な急性期患者数がピークアウトし始めていること,連携を必要とするポストアキュート患者が増加していることなどを勘案すると,アウトカム評価の導入は病院の機能分化を加速させる可能性がある.矢野論文では,「心筋梗塞,脳卒中,重度の外傷,先進のがん治療」を高度急性期・急性期の範疇とし,それ以外を軽度の救急も含めて慢性期とした上で,多様な疾患に対応した慢性期医療指標の試案が説明される.平成30年度診療報酬改定が,全ての病棟を治療の場として再定義したことに対応する野心的な試みである.

ところで,矢野論文でも言及されているように,こうした医療の質指標の基盤となったのはDPC制度である.松田論文では,DPCがそのような応用を意図して開発されてきたことを説明している.

医療の質評価は今後さらに進んでいくだろう.本特集が病院にとって,このことをあらためて考えるための契機になれば幸いである.

文献
 1)  OECD:医療の質レビュー 日本 スタンダードの引き上げ:評価と提言.OECD, Paris, 2014
産業医科大学公衆衛生学教室教授松田 晋哉