巻頭言
特集ガバナンス改革で変わる病院

 最近,病院の現場でも「ガバナンス」という言葉がよく使われている.「ガバナンス」は,企業の統治(コーポレートガバナンス)のみならず,政府の統治(パブリックガバナンス),さらには国際関係における統治(グローバルガバナンス)など,多様な領域で議論されている概念で,その定義は論じる者によってさまざまである.

 病院のガバナンスについて議論する場合,病院の統治構造からその適切なあり方を考えるホスピタルガバナンスと,診療組織を医療の質と安全で規律づけるクリニカルガバナンスに分けることができる.当然であるが,両者の領域は密接に関連している.

 本特集では,総論として副島秀久氏に「病院のガバナンスをどう利かせるか」を寄稿いただいた.副島氏は,組織内の相互牽制や外部からの監視で権限の集中を防ぎ,コンプライアンスを保持するのが病院のガバナンスのあり方であると指摘する.その上で,財務・人事・質管理・情報の4つの領域で考えるべきと提案する.

 また,松原由美氏には,「非営利組織のガバナンス」を解説いただいた.松原氏は,病院のガバナンスについて,①非営利組織にふさわしい経営であるか,②事業費が公的資金で賄われるにふさわしい経営であるか,③医療内容は適切か,④病院において社会的価値を創造する当事者である職員が,その存在意義を発揮できる職場であるか,の4点を挙げ,それを実現できる仕組みづくりが求められていることを指摘されている.

 筆者は,政治学的観点から病院という組織に対するガバナンスについて考察した.現在,厚生労働省が進めている地域包括ケアシステムの整備や地域医療構想調整会議の動きも,病院政策におけるガバナンスの変革の流れであると指摘した.

 さらに事例として,岡俊明氏に「JCI認証で強化される病院のガバナンス」,小松康宏氏に「群馬大学医学部附属病院の医療の質・安全改革に向けた取り組み」,竹内友之氏に「監査法人から見た病院ガバナンス」,島弘志氏に「医師の働き方改革における病院内の合意形成」をそれぞれ寄稿いただいた.特に,小松論文と島論文は,現在病院が直面する喫緊の課題である医療の質・安全改革や医師の働き方改革について,リアルな報告をいただき,大変興味深い論文となっている.

 巻頭の望月泉氏との対談では,岩手県立中央病院の院長としての経営改革の経験を通じ,病院のガバナンスのあり方を考えるものとなった.病院が時代の変化に対応して生き残っていくためには,院長のリーダーシップ,職員の自発性,内部と外部からの適切な統制をバランスよく行っていくことが重要である.

 本特集が,今後病院のガバナンスを議論する上で役に立つものとなることを期待する.

城西大学経営学部教授伊関 友伸