巻頭言
特集多国籍社会に直面する病院

 ラグビーW杯が2019年秋に迫り,2020年はオリンピック・パラリンピックを控え,訪日観光客の大幅な増加が予想される.さらに,政府は出入国管理及び難民認定法を改正し,日本が長年続けてきた「外国人の単純労働は認めない」という入管政策の大前提を変えた.これに伴い訪日・在留外国人が増加し,日本の社会はいや応なしにグローバル化する.2018年度より,政府や日本医師会も外国人医療対策に本格的に乗り出し始め,医療機関への負担をできるだけ軽減させるとともに,訪日外国人が安心して医療を受けられる体制の確保を急いでいる.そこで本特集では,外国人医療対策について,厚生労働省,学会,現場のそれぞれの立場から,現状と課題について紹介していただいた.

 髙﨑論文では,厚生労働省による包括的な訪日外国人対策の概要が示されている.問田・森村論文では,救急災害医療分野における訪日外国人医療対応について,医学系学会で構成される東京オリンピック2020コンソーシアムで検討されている内容を中心に,現状と課題を具体的に提示していただいた.こうした国や学会レベルの方針が一朝一夕に波及するわけではなく,現場レベルではさまざまな試行錯誤が行われている.渡部論文では,徳洲会国際部における外国人患者受け入れの経緯や課題を具体的に示していただいた.齊藤論文では,質の高い医療通訳の需要に対して,石川県医師会が行っている外国人医療対策の一環である,団体契約による電話医療通訳を活用した実証事業が詳しく解説されている.戸田論文では,医療機関における外国人対応を効率的に進めるために,部署の垣根を越える外国人向け医療コーディネーターの存在が重要となってきていることが示されている.坂下論文では,在留外国人の人口比率が高い岐阜県美濃加茂市の対応策について,行政との連携など具体例を挙げながら紹介いただいた.

 どの論文にも共通するのは,外国人に「日本に来てよかった,病気が治った」と思ってもらえる体制を整えたいという考え方であり,その哲学は,巻頭対談で横倉日本医師会長の言葉として明確に示されている.さらに横倉会長は「医療の基本は,一人一人の患者さんをいかに大事にするかということ」「医療を行う地域を考えていく必要があること」をこれからの日本の医療が進む軸となる考えであるとしている.

 本特集が,外国人医療対策を日本が国際化・多文化化する中での一つの契機と考え,「地域医療としての外国人医療整備」へ取り組む読者の皆様の一助になれば幸いである.

キングス・カレッジ・ロンドン教授渋谷 健司