巻頭言
特集どうする,病院食

 食事を取れるようになったら退院が求められるような現代の病院において,改めて病院給食の目的を問われたとき,どのように返答するのだろうか.

 1994年の健康保険法の改正により「入院時食事療養費」制度が導入された.病院給食は医療の一環として食事療養という名称が付いたが,一方で,療養の給付からは外された.その際の厚生労働省の説明は,「日常生活でも食事は普通に取るのだから,その生活コストに相当する部分は患者の自己負担で行うべき」というものだった.その結果,それまでの「冷たい,早い,まずい」(適温適時は1992年に制度化)という患者の病院食に対する意識は,「食事代を負担するのだからそれ相応のおいしい病院食を提供すべき」との考え方に変わった.病院側もそれに応えて努力を重ね,本誌の2014年5月号特集「病院食再考」では,さまざまな明るい病院食の未来が語られていた.それがわずか数年後に病院給食の危機が叫ばれるようになるとは,誰が予想しただろうか.

 実際に何が危機となっているかは,中村康彦氏(全日本病院協会副会長)の論文を参考にしてもらいたい.改めて病院給食の目的を問うたのは現状の危機感からである.

 2014年の特集に「病院食を再考する─病院食の現状とこれから」を寄稿いただいた中村丁次氏(日本栄養士会会長)には,これからのあるべき病院給食の姿について問題提起と対策も含めて論考いただいた.2014年の論文と比較すると,現状の危機について,より理解が深まる.また,給食業務を委託している病院は非常に多いが,一部の病院で委託業者から撤退されたとの話も聞くようになった.日本メディカル給食協会会長の山本裕康氏には,特に人材不足の観点から,現状の課題と今後の給食会社の展望について論考いただいた.加えて,2018年の食品衛生法の改正により給食事業はHACCP対応が義務化されたことについて知らない病院経営者は多い.給食の一つの形態である病院給食も当然,この義務化に対応しなければならない.これについて厚生労働省医薬・生活衛生局の福島和子氏に執筆いただいた.

 以上の山積みとなった病院給食の課題に対して,東口髙志氏との対談は,病院食の進歩を時系列で示して理解を促し,解決の糸口を示唆する内容となった.

 最後に,このような状況下で実際の現場はどのようになっているか.全く異なる取り組みを行っている3カ所の病院に事例として執筆いただいた.

 自院の病院給食の課題を踏まえて,本特集を活用いただきたい.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁