巻頭言
特集平成の病院医療から次の時代へ

 バブル景気に沸いた1989年に始まる平成時代ほど,わが国の社会経済状況や医療のあり方が大きく変わった時代はないかもしれない.昭和時代の人口増と右肩上がりの経済成長が終焉を迎え,急速に少子高齢化やグローバル化が進行し,わが国は世界に冠たる経済大国から低成長成熟社会へと変貌を遂げた.それに伴い,医療,そして,病院を取り巻く状況も大きく変わった.本特集は,医療制度,病院機能,経営,人材,テクノロジーという観点から平成時代における病院医療を振り返り,新しい時代への展望を示すことを試みた.

 平成時代は,尾形論文・江利川コメントにあるように,介護保険制度(2000年),地域包括ケアシステム(2006年),税と社会保障の一体改革(2010年),地域医療構想(2014年)という,現在の医療制度にも大きな影響を与えている改革が実行された.その荒波を最も被って変革を迫られたのが,これからを担う若手の病院経営者たちである.急性期病院が地域包括ケアを担う核となる病院機能へと,いつ,どのように転換していくのか,どのように,その先に向かうのか.大田論文からはその時々の経営判断がリアルに浮かび上がる.それを「病院の潜在能力と地域の期待のマッチング」と称した河北コメントは,まさに言い得て妙である.

 いつの時代も,医療界の慣習や制度による非効率性の改善や基本的マネジメント,そして,時代に合った制度改革や規制の見直しが重要なのは,猪口コメントの通りである.そして,中村論文は病院経営における人的資源の重要性を改めて示しており,続く田中論文では,医療経営における人材や管理職の役割が大きく変化し,多様性や異質性が重要なキーワードとなるという.三谷コメントは,そのためにも,医師の働き方改革を今後の病院経営戦略の軸として考える必要性を示している.

 平成時代ほどICTを用いた既存の社会システムの抜本的変化が進んだ時代はないであろう.佐々江論文では日英両国の病院で働いた経験から,わが国のICT活用が陥りやすい課題をあぶり出していただいた.落合コメントは,目的を明確にしたICT活用の必要性を論じ,医療界が他の産業界から学ぶことが多々あるといい,今後の医療業界の大きな方向性を示唆している.鼎談では,病院界を代表し政策や制度設計においても積極的に提言を続ける神野氏と次世代のオピニオンリーダーである太田氏の両名が,もはや「まちづくり」や「生きる」を支援しないと病院経営は成り立たないこと,全国一律に通用するモデルはないこと,そして,スピード感を持って行動することを訴えている.次の時代も,『病院』誌がそのための貴重なリソースであり続けることを願う.

東京大学医学系研究科国際保健政策学教授渋谷 健司