巻頭言
特集地域とともに進化する中小病院

 つい最近まで,高度急性期医療を提供できる大病院だけが生き残り,「中小病院の役割は終わった」と言われていた.果たしてそれは真実か,というのが本特集の主題である.

 最初に結論を述べる.「中小病院こそ地域密着型の病院として地域包括ケアシステムを支え,日本の医療の大事な役割を担う」のである.では,そのために何をすべきか.

 まず,今後の方向性を模索している中小病院は,高橋論文で,自院の立ち位置を確認してもらいたい.高橋氏は,344ある全ての二次医療圏を訪問して現場の実情を把握し,かつ,二次医療圏データベースを作成・解析し将来設計を考える際に中小病院に最も役に立つ分類を行っている.

 次に,各論として,5名の病院経営者に執筆してもらった.この5つの論文に共通するキーワードが「まちづくり」である.

 志村フロイデグループは志村大宮病院を中心に20年以上の歳月を掛けて現在の姿に進化し,さらに進化を続けている.鈴木論文では,今までの取り組みを理論立てて丁寧に説明してあり,これから行動を起こす病院にとっても非常に参考になる.ポイントは,(1)医療と介護の連携から次の段階であるまちづくりへ,(2)まちづくりのポイントは生活を支える活動を展開すること,そして(3)地域医療連携は,垂直連携中心の医療モデルから水平連携中心の医療モデルへ,である.

 過疎地域にある内田病院(田中論文)とくろさわ病院(黒澤論文)では,少子高齢化の切実な現実から逃避するのではなく,強い郷土愛から積極的に地域と行政を巻き込む「まちづくり」により自病院を地域に必要不可欠な存在としている.急性期医療を行っている中小病院で,今後も急性期医療を提供しながら地域密着型病院を目指す病院は,三島論文と入江論文が参考になる.東埼玉総合病院(三島論文)は地域包括ケアシステムで有名な「幸手モデル」の中核病院である.機能分化が進む中で果たして今後も中小病院が急性期医療を提供することが可能かの答を提供するのが入江論文である.「臓器別専門医間の隙間」を埋める総合診療科を充実することで中小病院でも十分に急性期医療を提供できることを実証している.

 最後に巻頭の対談を読んでもらいたい.対談は,111床ながら地域の急性期医療を担い,しかも地域包括ケアシステムの中核病院として活躍している織田病院の織田正道理事長と行った.折に触れて織田氏が職員に伝えるという松下村塾の教育理念である「華夷弁別」こそが,地域で活躍する中小病院経営者へのエールにほかならない.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁