巻頭言

[特集] 事務職員の人材開発・キャリアパス

 以前,医療崩壊が社会問題になったとき,知り合いの医師と議論をしていて,医療崩壊の要因の一つに事務職員の能力不足があるという話になった.医師から「世の中には良い医師は数多くいて,頑張れば雇うことができるが,良い事務長・事務職員の数は少なく,雇用は難しい」という話を聞いてなるほどと思ったことがある.

 DPCによる包括評価や医療安全管理,突発的事象における事業継続(BCP)など,病院をめぐるマネジメントは時とともに高度化している.また,国の進める社会保障・税一体改革が目指す医療・介護機能の再編,病院の機能分化に対する対応も待ったなしの状況にある.自院が生き残っていくためには,病院マネジメント能力の向上,事務職員の人材開発を図ることが欠かせない時代となっている.

 だが,これまで事務職員の人材開発は,事務職員の雇用自体が,医師事務作業補助以外には診療報酬の加算の対象となっていなかったことなどにより,病院経営者の関心事項になっていなかった.事務職員について,医師・看護師のような確立した人材開発プログラムはなく,キャリアパスも不明確である.内部の職員が成長しないことから,責任者である事務長は外部の人材に頼ることも多かった.

 当然,事務職員の人材開発に熱心な医療機関も存在する.優秀な事務が病院のマネジメントを行い,病院の規模が拡大していく例も少なくない.だが,中小の病院を中心に,日常の業務に追われて事務職員の人材開発に手が回らないところが多い.平成21(2009)年度の厚生労働省医政局委託「医療施設経営管理部門の人材開発のあり方等に関する調査研究」においても,病院の人材開発の中でも,経営管理が期待される事務職の人材開発が疎かになっていることが指摘されている.事務職員の能力開発について熱心な病院と余力のない病院に二極化し,それが栄える病院と衰退する病院の二極化につながっているとも考えられる.

 また,わが国の病院数の約1割を占める自治体病院では,職員の配置が地方自治体の人事異動の一環として扱われ,前日まで土木部局や教育部局に勤務していた職員が突然,病院に勤務するということが当たり前に行われている.しかも2~3年で仕事に慣れたところで他の部門に異動となり,また病院事務の素人の事務職員が配置となり,一からやり直しという病院も多い.

 今後,わが国の病院が成長していくためには,病院事務職員の人材開発・キャリアパスを確立することが緊急の課題になっていると言える.本特集では,これからの事務職員の人材開発・キャリアパスについて考える.

伊関 友伸
城西大学経営学部教授