病院 2009年11月号(68巻11号)
特集
補完代替医療のこれから
広井 良典(千葉大学法経学部教授)
本誌『病院』において,補完代替医療に関する特集を行うのは,2004年5月号(63巻5号)に次いで2度目である.基本的には,様々な慢性疾患やストレスなど心理的・社会的な要因と深く関連する「現代の病(やまい)」への対応として,“要素還元主義”的な発想をベースとする西欧近代科学の視点のみではなく,より広い視野に立った病気観や医療のあり方が求められるようになっていることが特集の背景にあるが,最近では,補完代替医療に関する具体的な展開として次のような動きも見られる.
1つには,(遅ればせながらという面もあるが)厚生労働省もこうした補完代替医療に関する対応に一定の関心を見せるようになり,厚生労働科学研究費の医療安全・医療技術評価総合研究事業において,「統合医療に関する研究」という項目を新設し(2006年度),「西洋医学に含まれない医療領域である相補・代替医療に該当する漢方,あん摩マッサージ,はり,きゅう等のほか,食事療法,カイロプラクティック等及びヨガ・精神療法等を現代西洋医療と効果的に組み合わせた医療」を「統合医療」とし,内外における統合医療の現状調査や,統合医療の開発研究ということを調査研究課題として位置づけたという動きがある.先ほど「遅ればせながら」と記したのは,実は中国・韓国など他のアジア諸国や,アメリカ,ヨーロッパの多くの国々は,補完代替医療に関する政策やシステム整備を着実に進めていることが,この調査研究から明らかになったこととも関連している.
また,先般の総選挙で民主党が大勝し,政権交代が現実のものとなったが,民主党のマニフェスト(民主党医療政策詳細版)では,「統合医療の確立ならびに推進」ということが項目として掲げられ,「漢方,健康補助食品やハーブ療法,食餌療法,あんま・マッサージ・指圧,鍼灸,柔道整復,音楽療法といった相補・代替医療について,予防の観点から,統合医療として科学的根拠を確立します.アジアの東玄関という地理的要件を活かし,日本の特色ある医療を推進するため,専門的な医療従事者の養成を図るとともに,調査・研究の機関の設置を検討します」ということがうたわれている.
これらは,なお緒についたという段階にとどまるものであり,今後の具体的展開はなお未知数であるが,社会的ないし政策的なレベルにおいても補完代替医療に関する展開が始動しつつあることを示す例と言えるだろう.また,より具体的には,本特集の中でも紹介するように,大学病院などを含めて,漢方外来など補完代替医療に関する窓口や体制を整備する動きが各地域で見られるようになっている.
本特集では,上記の厚生労働省の調査研究に関する成果を含め,補完代替医療に関する最近の展開のうち代表的なものを幅広く概観してみたい.読者にとって,本特集が補完代替医療のこれから,そしてより広くは今後の医療のあり方や,患者ニーズへの病院の新たな対応を考えるにあたって何らかのヒントになれば幸いである.