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病院 2008年11月号(67巻11号)

特集
「環境の時代」と病院

広井 良典(千葉大学法経学部教授)


 地球温暖化や資源・エネルギー問題,リサイクル,自然環境の保全等々,「環境」をめぐる諸課題は私たちにとってきわめて身近で切実な問題となっている.それは生活に根ざした具体的な話題であると同時に,人類のゆくえや現代人のライフスタイルのありようを根本から問うているテーマであると言っても過言ではない.

 同時に,こうした環境をめぐる問題は,実は医療や病院ときわめて密接な関連性を持っているが,これまで「環境と医療」というテーマが議論されることはごく限られた範囲にとどまっていた.本特集ではこうした話題を正面から取り上げ,今後の医療や病院経営にとって環境をめぐる諸課題がどのような意味を持ち,またどのような対応が求められるかを広く探ってみたい.

 「環境と医療」が深く関わる場面は大きく3つある.第1は,そもそも人間の病気や健康ということ自体が「環境」と密接に関わっているという点である.これには様々な側面があるが, 例えば近年では人間の病気についての 「進化医学 evolutionary medicine」と呼ばれる領域が発展しつつあり,人間の生物学的資質と人間を取り巻く「環境」のギャップが(ストレスなどを含め)様々な病気として現れるといった見方が浸透しつつある.第2は,現実の病院経営にとって「環境」をめぐる諸課題が無視できない大きさを持つようになっているという点である.これには,例えば最近様々な議論がなされている「CSR(企業の社会的責任)」の視点を病院経営にどう反映させるかといった話題や,いわゆる「ロハス」など,環境と結びついた人々の新たな健康ニーズに対して病院がいかに対応していけるか等といったテーマが含まれる.加えて,省資源・省エネルギー,リサイクルの推進や廃棄物の適正処理・減量化といった従来からの課題も新たな展開を見せており,環境マネジメントや環境会計といった手法が注目を集めている.第3に,環境や自然との関わりということを医療やケアそのものの中に取り入れていくことが大きな関心を集めるようになっており,この中には,医療における緑地環境の利用,病院緑化,森林療法等々といった新たな話題が含まれる.

 以上のように,環境問題への人々の関心の高まりとも並行しつつ,「環境と医療」というテーマないし視点が大きく浮かび上がりつつあるのが現在である.本特集がこうした新しい課題に向けての何らかのヒントとなることを期待したい.