病院 2008年3月号(67巻3号)
特集
事務職員の採用とキャリア形成
池上 直己(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授)
現在,公立病院は本庁,民間病院は家業からの独立が求められており,その際,要となるのが有能な事務職員の採用とキャリアの形成である.この課題を実現するために以下について検討する必要がある.まず,第一に「事務」と総括されているが,医事課におけるレセプト作成等の専門技能と,経理・人事部門等の一般的管理技能とは性質が異なり,両者のバランスを本人の適正と法人・病院のニーズに考慮して保つ必要がある.第二に,人材を内部で養成し,役職者の異動・退職に備えて後継者を育成するか,あるいは銀行等の取引先や親しい関係者等から迎え入れるかを選択しなければならない.第三に,医療機関は一般に中小規模でポストも限られており,その中でキャリアパスを用意する必要がある.こうした枠組みの中で何が可能かを本特集で取り上げた.
まず,慶應義塾大学院経営管理科の大藪毅氏は,企業では組織の長期的利益に貢献するコア人材と,それ以外の周辺人材に分けるようになったが,病院では有資格者のほとんどはコア人材にならないことの問題点を解説している.これを受けて,筆者は病院の事務職もコアと周辺に分かれ,コアの人材として内部から養成する場合と,外部から登用する場合の功罪,および研修の役割を分析した.
次に,実際の事務職員の養成について,全国社会保険協会連合会研修センター長の杉崎富夫氏,茨城県立病院事務局次長の接待隆敏氏,および財団法人三友堂病院事務部長の大峽雅男氏に寄稿いただいた.杉崎氏は1段目(新人)から7段目(局長)までの研修,および経理と医事の職能別研修,接待氏は3年で配置換えが行われる自治体立病院における医事業務の委託,および自らも外部から幹部職員として登用された経験,大峽氏は全日本病院協会の事務長研修会の受講生を対象としたアンケート調査で計画的な事務系職員の採用は17%,キャリアパスの用意が13%に留まっていること等,をそれぞれ報告している.
最後に,病院団体として実施している研修事業について,日本病院会の小川嘉誉氏,全日本病院協会の大橋正實氏,および日本精神科病院協会の松田ひろし氏より,それぞれの団体の研修を紹介いただいた.小川氏は30年に及ぶ管理者養成の通信教育の実践,大橋氏は病院を巡る厳しい環境に対処するために2005年に開始された研修の内容および受講生の背景と感想,松田氏は1970年より各支部の責任で開催されてきた研修事業,をそれぞれ述べている.
以上が今後の病院における事務職員の採用とキャリア形成に役立てば幸いである.