HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻13号(2010年12月号) > 今月の主題●座談会
今月の主題●座談会
血液悪性疾患が気になるとき,気にすべきとき

発言者
緒方清行氏(日本医科大学血液内科)=司会
中村恭子氏(日本医科大学血液内科)
引野幸司氏(茅ヶ崎徳洲会総合病院呼吸器内科・腫瘍内科)
安井美沙氏(順天堂大学医学部膠原病内科)


緒方 本日はお集まりくださり,ありがとうございます.「血液悪性疾患が気になるとき,気にすべきとき」をテーマに,お話しいただきたいと思います.

■造血器腫瘍をどのような状況で経験したか

緒方 まず,造血器腫瘍のご経験について引野先生,お願いします.

救急での経験

引野 当院は神奈川県湘南地域で救急医療の中核を担う存在ですので,多くの患者さんが搬送されてきます.研修医時代,夜中に受診された20歳台の女性がAML(急性骨髄性白血病)だったことは今でも印象に強く残っています.

緒方 貧血で来たのだけれども,実際にデータを見ると違っていたのですね.

引野 はい.検査技師の方がすぐに目視してくれてわかりました.紫斑も出ていました.

中村 そういう方は開業医の紹介ではなくて,「フラフラする」などと,突然やってくるのでしょうか.

引野 そうですね.仕事帰りに受診される場合や,ぎりぎりまで症状を我慢して夜中に来られるという場合が少なくないように思います.

緒方 この間,おばあさんが夜中に階段を転げ落ちて動けなくなって,引野先生の病院のERに来ていましたね.外傷なのですけれども,入院して,いつまで経っても出血が止まらない.調べたらAPL(急性前骨髄球性白血病)でした.

引野 当院には血液内科の常勤医がいないので,最初の頃はずいぶん心細い思いをしながら診療をしていました.私が研修2年目の頃,非常勤の先生や近所で開業されている血液内科の先生に聞きながら,AML(FAB分類)M3を寛解導入まで診た経験があります.35歳の女性でしたが大変でした.

緒方 中村先生はいかがですか.

中村 印象に残っている経験をお話しします.救命センターに勤務していた頃の経験です.32週の妊婦さんで,出血があり切迫早産の疑いでかかりつけの産科に入院し,安静で様子をみたそうです.1週間経って意識レベルダウンで搬送されてきました.脳幹出血でした.そのときの白血球が32万.産婦人科の入院時の血算は白血球4万,血小板が2万でした.産科医に「この時点でどうして紹介しなかったのか」と尋ねると,「血算を見ていなかった」というのです.胎児は稽留流産,妊婦は初療室で心肺停止,CPR(心肺蘇生)には反応したものの脳死になり,1週間後に亡くなりました.APLでした.後日,産科との間で訴訟になっていました.

 その6カ月前に33週の妊婦がbicytopenia(2系統の血球減少)で紹介されてきました.即日APLと診断されて,ATRA(オールトランス型レチノイン酸)で寛解導入し出産しました.患者さんは今もお元気で,お子さんは今年高校生になりました.その経験があっただけに,先の妊婦さんの死は非常に残念です.

安井 妊娠中に発症するということですか.

中村 妊娠は白血病発症のリスクの1つです.免疫寛容がありますから.でも,妊婦さんも少し時期と薬剤を選べば普通に寛解導入できます.

緒方 20歳台,30歳台での癌死亡は白血病かリンパ腫です.若い人は要注意です.

安井 妊娠の年齢と重なるんですね.

緒方 検査をオーダーしているのに血算データを見ていない人が多くて驚きます.私も,末梢血にblast(芽球)があるのに,半年も経って紹介された経験があります.大病院などでは診療科が細分化されていて,自分の専門分野しか診ていないからでしょうか.

中村 そうですね.危ないですね.

安井 検査データは高値が赤で低値が青などと表示されていますが,何となく見逃してしまうのかもしれません.

引野 もっと目立つ色に変えたほうがよいかもしれませんね.

中村 よほど変な値だと気づくのでしょうが,一方で「あまりに桁が違いすぎてわからない」と言われたこともあります.わからないと思ったら,まずほかの患者と比較していただきたい.

引野 当院では,検査室の技師がデータ異常を電話で伝えてくれます.

中村 それはすばらしいですね.検査を外注している病院では,外注先からFAXなどで注意をうながされ「よくわからないけれども送ってみよう」と紹介されますが,中規模の病院で院内で検査している場合,かえって異常に気づかないことがありますね.

外来での経験

緒方 引野先生,外来での経験はいかがですか.

(つづきは本誌をご覧ください)


緒方清行氏
1981年日本医科大学卒.同第三内科研修医,同第一生化学助手,米国Hipple Cancer Research Center(日米癌研究訓練計画による交換留学生),同第三内科病棟医長などを経て,2006年より日本医科大学 血液・消化器・内分泌代謝内科(旧第三内科)教授.専門は骨髄異形成症候群(MDS)の臨床と研究.米国MDS財団認定Center of Excellenceの日本医科大学代表.医学教育には卒後2年目から従事.日本内科学会総合内科専門医,日本血液学会専門医,米国内科学会フェロー.

中村恭子氏
1992年日本医科大学卒.同第三内科研修医,助教を経て,2007年より日本医科大学付属病院講師,同血液内科医長.日本内科学会総合内科専門医,日本血液学会専門医,がん治療認定医.
一人でも多くのCHOP療法ができる医師を育てることをライフワークにしている.趣味はガーデニングとピアノ.

引野幸司氏
2000年群馬大学医学部卒.茅ヶ崎徳洲会総合病院に勤務.2007年から国立がんセンター中央病院などで臨床研修を行い,2009年より茅ヶ崎徳洲会総合病院呼吸器内科・腫瘍内科医長.日本内科学会内科認定医,日本呼吸器病学会専門医,日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医.

安井美沙氏
2008年日本医科大学卒.同年より順天堂大学医学部付属順天堂医院で初期臨床研修.2010年順天堂大学医学部膠原病内科入局.今年度は初期研修で回りきれなかった科やより深く学びたい科を中心に他科ローテートしている.