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【特集】

教えて! 健診検診“ホントのところ”
エビデンスを知り,何を伝えるか

岡田 唯男(鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山)


 予防や早期発見は,多くの人の関心事である(医学的なのか,金銭的なのかはさておき).実際,「健診」「検診」「予防」という言葉と「学会」でクロス検索すると,20弱の学会が一瞬で見つかる.

 本特集では,健診/検診の定義,その有効性をどう判断するのかといった総論,特定の疾患を対象とした検診の法的・医学的根拠(存在すれば)を踏まえ,それらのスクリーニング行為を実施・推奨する意義を判断するための情報を提示する.また,異常を指摘された患者が来院した場合に,その異常が何を意味するのか(どのくらい偽陽性を含むのか),二次精査のメリット・デメリットがどの程度存在するのか,などについて,できる限り定量的な情報提供を行う.つまり本特集は,異常値への対応を中心とした“臨床検査異常値マニュアル”や“疾患治療アルゴリズム集”ではなく,「その健診/検診は本当に必要なのか?」という問いから始められるための情報源となることを目的とした.

 人間ドックや自費の健診はもとより,自治体や法的根拠の下に行われる健診/検診にさえ,医学的根拠の乏しいものが多く存在する.にもかかわらず,その乏しさや起こりうる害は説明されないまま,受診者は,懐具合や自分の関心との兼ね合いのみで受診項目を選ばされている.その背景として,スクリーニングの有効性判定には,一般的な診断や治療の有効性判定とは異なるロジックが必要なのに,通常の思考過程で有効性を判定していることがあると思われる.診断や治療であれば実施の根拠となりうる理由でも,スクリーニングの正当化の根拠とはなりえない理由が,Harrisらの論文に10個ほど挙げられており,ぜひ参照されたい1).本特集の各執筆者には,無理をお願いして普段はあまり参照することがないと思われる種類の貴重な論文を探していただいた.この場を借りてお礼を申し上げたい.

 本特集の全体を通じて,2点だけ肝に銘じていただきたいことをお願いしておく.

1)「スクリーニング異常=疾患が存在する可能性が高い」は,大きな誤解である.どれだけ検査特性(感度・特異度)が優秀でも,有病率が低い集団に行うスクリーニングは陽性的中率が数%にとどまる.つまり陽性者であったとしても偽陽性の占める割合が圧倒的に多い.

2)検診は自助ではなく共助である.number needed to invite(NNI)が1,000の検診(例:乳癌に対するマンモグラフィーのNNIは1,000~2,500)の場合,検診のおかげで疾患が見つかる1人を除いて,999人は結果的には無駄足である(“異常なし”という安心感は得られるが).しかしその1,000人が「そんな検診には意味がない」と受診しなければ,その1人すら見つからない.いわば1人を助けるために1,000人が無駄足を覚悟で受診しなければならないのだ.

 最後に,誌面の関係から特集の項目としては割愛せざるをえなかった,現場の実践やコンフリクトの解決については南郷栄秀先生との対談で取り上げているので,ぜひそちらもお読みいただきたい.

引用文献
1) Harris R, et al:Reconsidering the criteria for evaluating proposed screening programs;Reflections from 4 current and former members of the U.S. Preventive services task force.Epidemiol Rev 33:20-35, 2011

参考文献(さらに学びたい人のために)
1) アンジェラ・ラッフル,ミュアー・グレイ(著),福井次矢,他(監訳):スクリーニング―健診,その発端から展望まで,同人社,2009
2) 岡田唯男(編著):患者にきちんと届く! 届ける! 予防医療プラクティス,Gノート4(3),2017
3) 垂井清一郎(監),岡田唯男(編著),長尾和宏(編):予防医療のすべて(スーパー総合医),中山書店,2018