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【特集】

内科医のための「ちょいあて」エコー
POCUSのススメ

鈴木 昭広(東京慈恵会医科大学麻酔科学講座)


 超音波装置の高性能化・小型化と普及に伴い,point of care ultrasound(POCUS)と呼ばれる「ちょいあて」エコーが急速に広まりつつある.スイッチを入れ,プローブを「あてて,見る」だけで必要な臨床情報がリアルタイムに得られ,疾患の鑑別や基本的な診療方針の決定がきわめて簡単に行えるようになってきた.例えば救急領域で外傷初期診療に用いられるFASTプロトコールは,外傷性ショックの90%を占めるとされる出血性ショックの検索において,体腔内の液体貯留をYESかNOかで判断できる優れたツールとして,本邦では十数年以上も前から用いられている.近年では外傷以外のショックも網羅するRUSH examや,呼吸困難のスクリーニングを行うBLUE protocolなど,エコーを用いた生理学的異常へのアプローチが充実し,浸透してきている.

 また,簡単な医療処置や評価にエコーを用いることも普通に行われている.エコーガイド下の中心静脈穿刺などは医療安全の面からも優れており,院内での実施資格の取得にあたり,質の担保のために必須としている病院も多い.それ以外にも,胸水・関節・動静脈の穿刺や神経ブロック,生検などもエコーガイド下で行うことが広まっている.さらに尿閉の評価や尿道カテーテル挿入時の成否判断,残尿量の計測などでも,エコーは活用されている.

 このように,もはやエコーは「第2の聴診器」などと呼ぶべきものではない.五感による視診・聴診・触診・打診といった身体診察手法の代替・補完であったり,時にはその上位互換であったりと,アクセス良く,その場ですぐに使えるツールとしての立場を確立しているのである.

 それに伴い,われわれの診療も当然変わってきている.従来の臓器別診療の流れでは,エコー検査は専門医や臨床検査技師に依頼していた.しかし,POCUSでは担当医が自らエコーを行い,目的臓器をある程度は自分たちで評価・診断することで,診療時間を短縮したり,精査が必要なケースのみ専門家にfull studyを依頼するといったことが可能である.また,在宅診療や病棟での褥瘡対策などでは医師の指示の下,看護師がエコーを実施して臨床情報を得ることもあり,チーム医療を実践するうえでのコミュニケーションツールとしても存在感を増しつつある.

 本特集では,一般内科医あるいは研修医に向けて,日常臨床でエコーを使うことでちょっぴりお得感を味わえるようなPOCUSの基本を,その領域のエキスパートに解説していただく.エコーが手元にあれば,ぜひ「ちょいあて」してみて,「あ,ほんとに見えるんだ!」という気分を味わっていただきたい.

 本特集をエコーへの入口として,興味のある分野はさらに勉強や研鑽を重ねていただき,患者さんにその恩恵を還元してもらえれば幸いである.