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【特集】

プロブレムから学ぶ感染症診療
すぐに役立つ厳選シナリオ30選

矢野 晴美(国際医療福祉大学医学部・医学教育統括センター)


 感染症の診療状況は,この10~15年あまりで大きく進化・向上してきた.1980年代のHIV/AIDS,1990年代の鳥インフルエンザ,2000年代のバイオテロリズム,そして院内感染のアウトブレイクが医療安全面からもクローズアップされるようになった.私事であるが,2000年に一時帰国していた頃,バイオテロリズムの発生を受けて「標準予防策」の実践教育や講演に奔走した.2005年に帰国した際には,発熱のある患者に対して,血液培養を2セット採取することを多くの方にお話しした.また,2002年に立ち上げた「日本の感染症科をつくる会」のメーリングリストから,2005年に日本感染症教育研究会「IDATEN」が発足し,初代代表世話人を務めさせていただいた.合宿セミナーや症例カンファレンスを定期開催し,約10年間携わらせていただきながら,日本全体として感染症診療が大きく変化していることを体感してきた.

 現在,日本は超高齢社会を迎え,高齢者の医療ニーズへの対応が急務である.免疫抑制薬の開発から免疫不全患者が増え,さまざまな感染症への対応がプライマリケアの現場でも必要となってきている.また,2016年の伊勢志摩サミット以来,国家を挙げて薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなどが次々と決定・実行され,2018年4月からは抗菌薬適正使用支援プログラム(ASP)に対しても,加算点数が保険診療に組み込まれた.

 医学教育の面でも大きな転換期を迎え,2004年の新卒後臨床研修制度に続き,後期研修医についても2018年度から専門医制度が変わることとなった.また,医学の発達により特に感染症診療ではゲノムの解析,質量分析を用いた同定法,感受性検査法など診断方法について“革命”とも言える時代になっている.さらに医療の領域では人工知能AIとの共存など,さまざまな変化が予想され,大きな変化の時代となっている.

 次の10年は,エビデンスに基づいた効果的な教育をさらに幅広く提供する時期ではないかと考えている.つまり,事実を網羅するのみならず,基本原則の習得においては,その知識を応用する具体的な場面(コンテキスト)を提示しながら,より実践的に学ぶ機会を創出する必要がある.紙面上で効果が高いと考えられるのは,実臨床に近い場面で「判断を問う」機会をつくることである.

 本特集では感染症をテーマに,実臨床で遭遇する患者のプロブレムに対して,感染症と微生物,非感染症を的確に想定し,戦略的な検査と初期治療薬を選択するという感染症診療の流れを再現する.30症例のシナリオを模擬体験し,実践的な判断や思考を学べる機会をご提供するので,ぜひ楽しんで学習していただけたら幸いである.